先日、飲食チェーンを経営する社長からこんな一言をもらいました。「毎月けっこうな保険料を払ってるんですけど、それって経費になるんですよね?」と。話を聞いてみると、医療保険に加入しているものの、会社契約ではなく個人契約のまま。つまり、保険料は全額自腹で払い続けているという状態でした。

これ、本当にもったいないんです。

「個人で入るか、法人で入るか」で手残りが大きく変わる

生命保険や医療保険を個人で契約していると、払った保険料は基本的に所得控除の対象になるだけです。控除額には上限があって、実質的な節税効果はせいぜい数万円レベルにとどまります。

一方、法人でがん保険や医療保険に加入した場合、商品の設計によっては保険料を全額損金(経費)として計上できます。年間保険料が300万円の契約なら、法人の実効税率が33%前後だとして、単純計算で約100万円の節税効果が生まれます。同じお金を払うのに、結果がまるで違うわけです。

鍵になるのは「全額損金タイプ」という商品設計

法人保険の世界には、大きく分けて「全額損金」「1/2損金」「1/3損金」といった区分があります。どの区分になるかは、保険の種類・保障内容・払込期間などの設計によって決まります。

節税効果を最大化したいなら、「全額損金タイプ」に分類される商品を選ぶことが第一条件です。さらに、払込期間を短く設定する「短期払い」にして、毎年の損金算入額を大きくする設計が一般的なアプローチです。

たとえば、60歳満了の終身医療保険を10年払いで契約したとします。保険料を短期間に集中させることで、年あたりの損金計上額を増やしながら、保障は一生涯続くという形をつくれます。節税しながら、万が一のリスクもカバーできる。これが法人保険スキームの基本的な考え方です。

2019年の改正で「設計次第」の差が広がった

ここで注意しておきたいのが、2019年に国税庁が出した通達の改正です。それまで節税商品として広く使われていた「逓増定期保険」などの一部商品が、損金算入割合の見直しを受けました。

改正後は、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が細かく変わる仕組みになっています。返戻率が高い商品ほど損金算入できる割合が下がるイメージです。つまり、「これさえ入れば全額損金」という単純な話ではなくなっています。

がん保険・医療保険のカテゴリーでも、商品によって扱いが異なります。「全額損金になると聞いていたのに、実は1/2しか落ちなかった」というケースも出ているので、商品選びと設計の段階から専門家に確認することが必須です。

節税効果だけで保険を選ぶと危ない理由

法人保険の節税スキームを検討する上で、もう一点だけ押さえておいてほしいことがあります。それは「出口設計」です。

法人で保険料を損金算入し続けると、解約返戻金を受け取ったタイミングで益金(利益)として計上されます。つまり、今期の節税が将来の課税の先送りになっているケースも少なくありません。解約のタイミングを役員退職金の支払いに合わせるなど、出口をどう設計するかまで考えてこそ、本当の節税といえます。

節税効果の数字だけを見て飛びつくと、将来「なぜこんなに税金が増えているんだ」と青ざめることになりかねません。

まず自社の保険契約を棚卸しするところから

もし今、社長個人で医療保険やがん保険に入っているなら、一度契約内容を確認してみてください。場合によっては、法人契約に切り替えるだけで、同じ保障内容のまま経費計上できるようになるケースもあります。

すでに法人契約がある場合も、2019年改正後の取り扱いで損金算入割合が変わっていないか、税理士と一緒に確認しておくことをおすすめします。保険会社の担当者はあくまで保険のプロであって、税務のプロではないので、鵜呑みにするのは危険です。

年間の保険料をきちんと経費に変えられるかどうか。それだけで、数十万から百万単位で手残りが変わってきます。まだ一度も保険の経費処理を見直したことがないなら、今期の決算を前に確認しておくのが得策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。