先日、資産家の社長からこんな相談を受けました。
「実は生活費は不動産収入でまかなえているんですよね。会社から報酬をもらうたびに税金や保険料でごっそり持っていかれる感じがして……いっそゼロにするのってアリですか?」
これ、意外と多い相談です。そしてケースによっては、「アリ」どころかかなり効果的な戦略になることがあります。今日はその話をしましょう。
報酬をもらうほど、手元に残らない現実
役員報酬を受け取ると、所得税・住民税・社会保険料が一気にかかってきます。所得が高い社長の場合、これらを合算すると手取りが半分以下になることも珍しくありません。年間1,200万円の報酬でも、実質的に手元に残るのは600〜700万円台というケースはザラにあります。
「稼いでいるのに、なぜこんなに消えるんだ」と感じている社長は多いはずです。その感覚は、数字として正しい。
「報酬ゼロ」という選択肢が生まれる背景
不動産収入や金融資産からの配当など、会社以外に安定した収入源を持つ社長にとって、役員報酬は必ずしも「もらわなければならないもの」ではありません。
そこで出てくるのが、役員報酬をあえてゼロに設定するという戦略です。
一見すると極端に見えますが、理にかなった理由が3つあります。
メリット①:社会保険料の負担がなくなる
役員報酬がゼロになると、健康保険・厚生年金の社会保険料が発生しなくなります。
報酬が月50万円の場合、社会保険料の会社負担・個人負担を合計すると年間で100万円を超えることもあります。これがまるごとなくなるわけです。
もちろん国民健康保険への切り替えは必要ですが、それでもトータルの支出を大幅に抑えられるケースは少なくありません。
メリット②:個人の所得税・住民税がゼロになる
報酬がなければ、当然ながら個人の所得税も住民税も発生しません。
役員報酬が高いほど課税率も上がる超過累進課税の仕組みにおいて、これは非常にインパクトが大きい。報酬を受け取るたびに高い税率で削られる構造から、完全に抜け出せるわけです。
メリット③:会社に利益が残り、退職金の原資になる
報酬として社外に出ていたお金が、会社の内部留保として積み上がっていきます。この内部留保は、将来の役員退職金の原資として活用できます。
退職金は、適切に設計すれば退職所得控除が使えて税負担が非常に低くなる。役員報酬として毎年高い税率で受け取るより、退職時に一括で受け取るほうが手元に残る金額が多くなるケースもあるのです。
「在任中はゼロにして、辞めるときに厚く受け取る」という長期的な設計が成立します。
ただし、デメリットも正直に言います
ここで終わると「なんだ、最高じゃないか」となりますが、当然ながら注意点もあります。
まず、生活費の確保です。会社から給与が出ない以上、生活費は個人の資産や別収入からまかなう必要があります。「報酬ゼロ戦略」は、それができる方向けの話です。
次に、個人の金融与信が下がる点。住宅ローンや個人保証が必要な場面では、収入ゼロは大きなマイナスになります。あとから「やっぱり借りたい」となっても、対応できないことがあります。
そして最も注意が必要なのが、退職金の「適正額」ルールです。役員退職金は「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」という計算式で適正額が決まる慣行があります。報酬がゼロの期間が長いと、その分だけ退職金の適正額も下がってしまう可能性があるのです。
「退職金をたくさん積み立てたから大丈夫」と思っていても、税務上の適正額を超えた部分は損金に算入できないリスクがあります。ここは税理士と綿密に設計しておくべきポイントです。
こんな社長に向いている戦略です
整理すると、役員報酬ゼロが有効なのは次のような方です。
- 不動産収入や配当など、会社以外の収入で生活が成り立っている
- 個人の新規借入予定がなく、与信低下のリスクが小さい
- 長期的に会社を続け、退職金設計を専門家と一緒に組める
逆に言えば、「とにかく報酬をゼロにしよう」と安易に決めると、後で想定外の問題が出てきます。
今すぐできること
報酬設計は、期の途中で変更すると税務上の問題が生じます。変更できるのは基本的に決算後の一定期間内だけです。
「来期の報酬をどう設定するか」を今から税理士と話し合っておくことが、結果的に一番大きな節税につながります。報酬ゼロが正解かどうかより、「自分の状況に合った報酬設計になっているか」を一度見直してみてください。
気になる方は、次の決算前に専門家へ相談するのをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。