先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「そろそろ引退を考えていて、会社から退職金を出そうと思っているんだけど、どれくらい手元に残るの?」

試算して差し上げると、その社長は絶句していました。法人税・所得税・住民税が幾重にも重なり、最終的に手元に残るのは支払った金額の半分以下になってしまうケースだったからです。

退職金の準備を「いつか考えよう」と後回しにしている社長ほど、この現実に引退間際で気づきます。今回は、その対策として知っておくべき制度を一つ、しっかりお伝えします。

退職金を会社から払うと、なぜ目減りするのか

まず仕組みを整理しましょう。会社から役員退職金を支払う場合、法人側では損金に算入できますが、受け取った社長個人には所得税と住民税がかかります。

退職所得控除や2分の1課税といった優遇措置はあるものの、そもそも会社にお金を残すまでの過程で法人税がかかっています。つまり、稼いだ利益に法人税を払い、残ったお金を退職金として出して、さらに個人で課税される。二段階で税金を取られているイメージです。

「うちは利益が出ているから退職金を厚くできる」と安心していた社長が、実際の手取りを見て愕然とする——これは決して珍しい話ではありません。

小規模企業共済という「知っている社長」の選択肢

こうした状況に備えるために使われているのが、小規模企業共済です。中小企業基盤整備機構が運営する制度で、簡単に言えば「経営者のための退職金積立」です。

最大の魅力は、掛け金が全額、所得控除になること。月額1,000円から70,000円の範囲で自由に設定でき、上限いっぱいの月7万円で積み立てれば、年間84万円をそのまま課税所得から差し引けます。

課税所得が高い社長ほど効果は大きく、年収1,000万円クラスの方であれば、所得税と住民税を合わせた実効税率はおよそ35〜40%にもなります。年84万円の控除が使えれば、単純計算で年間30万円前後の節税になる計算です。10年続ければ300万円、20年なら600万円という差になります。

受け取るときも有利、二重のメリット

掛け金を払うときだけでなく、受け取るときも税制上の優遇があります。廃業や退職のタイミングで受け取る共済金は、退職所得として扱われます。

退職所得は、勤続年数(加入年数)に応じた退職所得控除が使え、さらに控除後の金額に2分の1をかけた額が課税対象になります。給与や事業所得と比べると、同じ金額を受け取っても税負担がぐっと軽くなる仕組みです。

積み立てる段階でも、受け取る段階でも税メリットがある——これが小規模企業共済が「知っている社長」に選ばれ続ける理由です。

加入できるのはどんな人?

加入対象は、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の個人事業主や会社の役員です。株式会社・合同会社の取締役や、個人事業主として事業を営んでいる方であれば、多くのケースで対象になります。

ただし、配偶者など共同経営者として加入するパターンや、複数事業を持つケースなど、少し確認が必要な場合もあります。「自分は対象になるのか?」と迷ったら、顧問の税理士や中小機構の窓口に問い合わせるのが確実です。

一点、注意しておきたいのが解約のルールです。任意解約の場合、加入から20年未満だと元本割れする可能性があります。長期前提の制度なので、「短期で使う運転資金」と混同しないようにしてください。あくまで引退に向けた積立として位置づけることが大切です。

「まだいいか」が一番もったいない

この制度のもう一つの特徴は、加入が遅くなるほど単純に損だということです。年84万円の控除枠は、加入している年しか使えません。30代で加入した社長と50代で気づいた社長では、累積の節税額に何百万円もの差がつきます。

「退職金なんてまだ先の話」と思っている若い社長こそ、今すぐ始めるべき制度です。毎月の掛け金を払いながら着実に積み立て、将来の自分へ非課税に近い形で届ける仕組みを、できるだけ早く動かしておく。それだけで、ビジネスの最後の着地が大きく変わります。

まだ小規模企業共済に加入していないなら、今期の決算前に一度、顧問税理士に試算を依頼してみることをおすすめします。数字を見れば、始めない理由が見当たらなくなるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。