先日、廃業を決めた社長から、こんな話を聞きました。

「退職金がないまま終わると思っていたけど、気づいたら1,680万円あった。もっと早く始めればよかった」

年商3億円の会社を60歳まで経営した田中社長(仮名)のひと言です。ほとんどの中小企業に退職金制度はありません。でも実は、社長個人が使える「退職金の仕組み」が存在します。それが小規模企業共済です。

社長の退職金がゼロになりやすい理由

会社員であれば、退職金は会社が積み立てるものです。でも中小企業の社長は違います。自分の会社から退職金をもらうには、役員退職金規程の整備や株主総会決議が必要で、資金も会社が準備しなければなりません。

結果として「うちは退職金なんて出せない」と最初から諦めてしまうオーナーが多い。田中社長もそうでした。廃業前の相談でたまたま過去の加入記録を確認したとき、自分でも忘れていた共済の積立額に驚いたそうです。

小規模企業共済の仕組み、シンプルに言うと

小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の役員が加入できる、国が運営する退職金制度です。月額1,000円から7万円の範囲で掛金を設定でき、支払った掛金は全額が所得控除になります。

田中社長のケースを数字で追ってみましょう。

月7万円を20年間積み立てた場合、掛金の合計は1,680万円になります。所得税・住民税の実効税率が30%とすると、毎年の節税額は約25万円。20年間では500万円の税負担が軽くなる計算です。

つまり「払いながら節税し、廃業・引退時に退職金として受け取る」という二重のメリットがあります。

受け取るときも優遇される

積み立てた掛金は、廃業・解約・役員退任のタイミングで受け取ります。このとき、受取額は退職所得として扱われます。

退職所得には「退職所得控除」という大きな控除があり、さらに課税対象は残額の2分の1。給与や事業所得と比べると、驚くほど税負担が軽くなります。積み立て時も受け取り時も優遇される、珍しい制度です。

「毎年25万円節税して、受け取りもほぼ非課税に近い感覚だった」と田中社長は話していました。

注意点:途中解約は元本割れのリスクがある

ただし、気をつけたいこともあります。

加入から20年未満で任意解約すると元本割れします。廃業や死亡・病気による解約は満額受け取れますが、「やっぱりやめた」という任意解約は、特に短期間だと受取額が掛金を下回ります。

また、掛金の変更は年に1回しかできないため、資金繰りが厳しい年に急に減額というわけにもいきません。無理のない範囲で、長期継続できる掛金額を設定するのが鉄則です。

40代からでも十分間に合う

田中社長の「40代から始めていれば」という言葉が印象的でした。20年積み立てれば最大掛金でも1,680万円。15年なら約1,260万円、10年なら840万円の積み立てになります。

100%ではないにしても、何もしないゼロとは大違いです。

小規模企業共済は、加入したその年から所得控除の効果が出ます。今期の所得が高くなりそうなら、年内に加入・増額することで節税にも直結します。決算が近い社長ほど、今すぐ動く価値があります。

まず現状の掛金と積立額を確認してみてください

「そういえば昔加入したかもしれない」という社長は、中小機構のサイトか顧問税理士に確認してみてください。田中社長のように、忘れていた積立金が見つかることもあります。

まだ未加入なら、今期中に加入手続きを済ませてしまうのがおすすめです。来年の申告で所得控除として使えますし、「退職金のない社長」から抜け出す第一歩になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。