先日、60歳で廃業を決断したある社長から、こんな話を聞きました。
「うちは退職金制度がないから、辞めるときは手ぶらだと思ってた。でも結果的に1,600万円以上が手元に残った」
驚いて話を聞くと、20年前に何気なく加入していた小規模企業共済が、静かに育っていたそうです。
社長に「退職金がない」は本当か?
中小企業の社長の多くが、退職金について諦めています。「うちは小さいから退職金制度なんてない」「老後は事業の売却益で何とかする」——そう思っている方は少なくありません。
ただ、実はそうした社長こそが、小規模企業共済の恩恵を最も受けられる立場にあります。
小規模企業共済とは、国が運営する中小企業経営者・個人事業主向けの退職金積立制度です。加入できるのは従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の経営者に限られており、サラリーマンは加入できません。つまり、社長のためだけに存在する制度です。
節税しながら積み立てる、という発想
この制度の特徴は、掛金が「全額所得控除」になることです。
月7万円(年間84万円)を掛けた場合、所得税・住民税の合算税率が30%であれば、毎年約25万円の税負担が減ります。10年続ければ250万円、20年なら500万円を超える節税効果です。
積み立てながら節税し、受け取るときもまた税制上の優遇を受けられる——これが小規模企業共済の最大の魅力です。
受取時は「退職所得」として扱われるため、給与所得や事業所得と比べて課税が大幅に軽くなります。退職所得は、受取額から控除を引いた残りの半分にしか課税されない仕組みになっているからです。積み立てるときも、受け取るときも、二重に優遇されているイメージです。
20年・月7万円で1,680万円
先ほどの社長の話に戻りましょう。月7万円を20年間積み立てると、元本だけで1,680万円(84万円×20年)になります。さらに、運用利回りによっては元本を上回る受取額になることもあります。
「知ってれば40代から始めたのに」が、その社長の一言でした。
たしかに、掛金の上限は月7万円。若いうちから満額で積み立てれば積み立てるほど、将来の受取額と節税効果は大きくなります。50代から始めても十分意味はありますが、40代のうちに始めるのが理想です。
注意したいポイント
この制度にはいくつか注意点もあります。
まず、任意解約(廃業以外の自己都合解約)は元本割れのリスクがあります。加入期間が短いほど受取額が下がるため、長期継続が前提の制度です。急に資金が必要になっても、すぐに引き出せる仕組みではありません。
また、法人の経費にはなりません。あくまで個人の所得控除であるため、社長個人の確定申告で控除を受ける形になります。法人税の節税とは別の話なので、混同しないよう注意が必要です。
それから、掛金の変更は自由ですが、減額する場合は手続きが必要です。業績が厳しい時期に「しばらく減らしたい」と思った場合も、事前の申請が必要になります。
今日から始められる
小規模企業共済への加入は、最寄りの商工会議所や金融機関の窓口で手続きできます。加入条件・掛金の設定・節税シミュレーションは、取引先の税理士に相談するのが一番スムーズです。
「退職金がない」と諦めていた社長ほど、この制度の恩恵が大きくなります。廃業や引退を具体的に考えていなくても、積み立ては早く始めるほど有利です。
まだ加入していないなら、今期の確定申告が終わる前に一度シミュレーションしてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。