先日、創業10年目の建設会社の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ自分の退職金のことを考えないといけないんだけど、何から始めればいいかわからなくて」。売上も安定してきて、会社のキャッシュも潤沢。でも、自分自身の将来設計は後回しにしてきた、というのです。

じつは、こういった社長はとても多いです。会社の資金繰りや採用、営業に追われるうちに、「自分の退職金」という問題をずっと先送りにしてしまう。そして気づいたときには、かなり不利な状況になっていることがあります。

会社から退職金を出すと、半分近く消える現実

退職金を「会社のお金からそのまま払えばいい」と思っている社長は少なくありません。でも、実態はそれほど単純ではないんです。

会社が役員に退職金を支払う場合、まず会社側で損金算入できるかどうかという問題があります。さらに受け取った役員個人には所得税と住民税がかかる。課税所得が高い状態で受け取れば、手元に残るお金が思った以上に少なくなる、ということが起きます。

「退職金3000万円のつもりが、税金を引いたら半分以下だった」という話も、決して大げさではありません。だからこそ、積み立てる段階から節税を意識した仕組みを使うことが重要になってくるのです。

小規模企業共済という「社長のiDeCo」

そこで知っておきたいのが、小規模企業共済です。国が運営する制度で、中小企業の経営者や個人事業主が自分自身の退職金を積み立てるために設計されています。

最大の特徴は、掛け金が全額所得控除になること。月1000円から7万円の範囲で自由に設定でき、上限いっぱいの月7万円にすれば、年間84万円をそのまま課税所得から差し引けます。

課税所得が高い社長ほど、この恩恵は大きくなります。たとえば年収1000万円クラスの社長が月7万円を掛けた場合、所得税・住民税の節税効果は年間で約30万円に達することもあります。10年続ければ、それだけで300万円の差になる計算です。

受け取るときも優遇される「二段構えの節税」

小規模企業共済のもう一つの魅力は、受け取り時にもあります。廃業や退任のタイミングで共済金を受け取る際、退職所得として扱われるのです。

退職所得には「退職所得控除」という大きな控除が使えます。勤続年数(加入年数)が長いほど控除額が増え、さらに控除後の金額を2分の1にしてから税率をかける仕組みになっています。つまり、同じ金額を給与で受け取るよりも、税負担がぐっと軽くなる。

積み立てる段階で節税、受け取る段階でも節税。この二段構えが、小規模企業共済が「社長の最強の節税ツール」と言われる理由です。

加入できるのは誰か、注意点は何か

加入できるのは、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の会社の役員、または個人事業主です。共同経営者も加入できます。

いくつか注意点もあります。掛け金は「任意解約」の場合、元本割れするリスクがあります。あくまでも長期的に積み立て、退職・廃業のタイミングで受け取ることを前提とした制度です。短期的な資金調達の手段としては向きません。

また、加入手続きは中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が窓口ですが、実際には金融機関や商工会を通じて申し込む形になります。手続き自体はそれほど複雑ではないので、一度確認してみることをおすすめします。

「いつか入ろう」が一番もったいない

小規模企業共済は、加入した月から積み立てが始まります。逆に言えば、加入していない月は、節税の機会がそのまま消えていくということです。

年84万円の所得控除は、加入していなければゼロ。1ヶ月遅らせるだけで7万円分の控除が消える。そう考えると、「いつか入ろう」と先延ばしにするコストがどれだけ大きいかがわかります。

まだ加入していない社長は、今期の決算が終わる前に一度、顧問税理士に試算を依頼してみてください。自分の課税所得と掛け金のシミュレーションを出してもらうだけで、どれだけお得か実感できるはずです。退職後の自分に、今の自分から送れる最高のプレゼントかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。