「役員報酬、去年と同じ額にしておきました」
5月に入って、この言葉を何度か耳にします。新年度が始まり、バタバタしているうちに昨年のまま流してしまう社長は少なくありません。でも今年——2026年度は、それが思わぬコストになりかねない年です。
今年の改正が「地味に」効いている
2026年度の税制改正では、所得税の税率構造の見直しと、社会保険料の標準報酬月額の上限引き上げが重なりました。派手な増税ニュースとは違い、なかなかニュースになりにくい変化です。ただし、役員報酬の設計に与える影響は、決して地味ではありません。
役員報酬の「最適額」は、3つのコストのバランスで決まります。
- 所得税・住民税:報酬が上がるほど税率が高くなる累進課税
- 社会保険料:報酬に連動して増える(標準報酬月額に上限あり)
- 法人税:役員報酬を多く払うほど会社の利益が減り、法人税が下がる
この3つのバランスポイントは、税制改正のたびに動きます。昨年最適だった額が、今年も最適とは限らないのです。
月4万円の差が年間50万円の損に
具体的な話をします。年収ベースで800〜1,200万円の役員報酬を設定している社長層では、今回の改正の影響が特に大きく出ます。
たとえば、昨年の試算で「月85万円が最適」と設定したとします。ところが今年、社会保険料の算定区分が変わったことで、最適額は月81万円にシフトしていた——こういったケースが実際に出ています。
月4万円の差。小さく見えますが、年換算で約48万円です。さらに、この差は会社側・個人側の双方の可処分所得に影響するため、実質的なインパクトはさらに大きくなります。一度設定を誤ると、12ヶ月間その状態が続く。これが役員報酬の怖いところです。
変更できる窓は、今期の3ヶ月だけ
役員報酬の設計には、もうひとつ大事なルールがあります。定期同額給与の原則として、役員報酬は期首から3ヶ月以内に変更しなければなりません。3月決算の会社であれば、6月末が期限。それを過ぎると、原則として今期中は変更できません。
「気づいたら変更できる時期が過ぎていた」——これが最も多いパターンです。5月中旬の今は、まさに最後の確認タイミングです。株主総会の議事録を作成する前に、一度立ち止まってほしいのです。
「顧問税理士がいるから大丈夫」の落とし穴
経営者の方と話すと、「税理士に任せているから」という声をよく聞きます。もちろん、毎年きちんと最適化を提案してくれる税理士もいます。ただ、顧問契約の範囲によっては、役員報酬設計の最適化は「自発的に相談しないと動いてもらえない」こともあります。
決算申告と税務署対応はしてくれるけれど、報酬設計の細かい試算は求められたときだけ——そういう関係になっている会社も実は多いです。「今年の改正を踏まえて、役員報酬の最適額を試算してもらえますか」と一言添えるだけでいい。それだけで年間数十万円の差が生まれる可能性があります。
今すぐ確認すべき3つのこと
難しいことは後でいいので、まずこれだけ確認してください。
- 現在の役員報酬の月額と、それを最後に見直した時期
- 今年度の社会保険料の標準報酬月額が昨年から変わっているかどうか
- 顧問税理士に「今年の役員報酬は最適かどうか」を聞けているかどうか
この3点を確認するだけで、放置リスクを大幅に下げることができます。特に3点目——「聞けていない」なら、今日電話する価値があります。
役員報酬の最適化は、節税スキームのような特別な話ではありません。毎年1回、必ず向き合うべき「経営の基本動作」です。2026年の改正を機に、今期の役員報酬が本当に最適かどうか、税理士と一緒に確認してみてください。変更できるのは今期だけ。後悔しないタイミングで動いてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。