先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「うちも去年から給料を上げたんだけど、税金で何か得なことってあるの?」
正直、この質問には少し複雑な気持ちになりました。その会社はすでに賃上げ促進税制の対象要件を満たしていたのに、一度も申告していなかったからです。
「経費で落とす」とはまったく別の話
賃上げ促進税制とは、従業員の給与を前年より一定以上増やした企業に、法人税の税額控除が認められる制度です。ここでいう「税額控除」は、経費として落とすのとはまったく別の話です。
経費計上は課税所得を減らす仕組みで、仮に100万円経費が増えても節税額は税率分(中小企業の実効税率は概ね25〜28%)にとどまります。
一方、税額控除は計算後の法人税額から直接引きます。100万円の控除枠があれば、そのまま100万円の税金が減ります。同じ「節税」でも、税額控除は経費計上の2〜3倍のインパクトになることもあるのです。
中小企業の適用条件は思ったよりシンプル
中小企業向けの賃上げ促進税制は、条件がシンプルです。
- 雇用者全体の給与総額が前年度比1.5%以上増加していること
- 青色申告法人であること(ほとんどの中小企業が該当します)
この1.5%、意外とクリアしやすい水準です。たとえば年間給与総額が5,000万円の会社なら、75万円増えれば条件を達成できます。パート・アルバイトの時給を少し引き上げたり、ベースアップを実施したりすれば、十分に届く数字です。
控除率は給与増加額の15%から始まり、増加率が2.5%以上になると30%、さらに教育訓練費の増加や育児・介護関連の取り組み要件を満たすと最大45%まで上乗せされます。
給与増加額111万円で約50万円が手元に残る
少し具体的な数字で見てみましょう。
前年度の給与総額が4,400万円だった会社が、今年度に4,511万円へ増やした場合、増加額は111万円で増加率は約2.5%です。上乗せ控除の条件もクリアしています。
このとき適用できる税額控除の最大額はこうなります。
111万円 × 45% ≒ 約50万円
払う予定だった法人税から50万円が丸ごと引かれる計算です。「現金50万円が手元に残る」のと同じ意味を持ちます。この制度は2027年3月末(2027年3月31日以前に終了する事業年度)まで使えるので、今期の決算がまだの会社は十分間に合います。
「申請し忘れ」が一番もったいない
賃上げ促進税制で本当に残念なのは、使える会社の多くが申告書への記載を入れ忘れているケースです。
賃上げ自体はしているのに、申告書に「別表六(十六)」を添付していないだけで控除をまるごと逃してしまいます。このミスは修正申告で取り戻せる場合もありますが、法定申告期限から5年以内という期限があります。
過去の申告を振り返って「賃上げしていたのに別表をつけていない」年度があれば、早めに税理士に相談することをお勧めします。
控除を最大化するために今から準備できること
控除率の上乗せに関わる追加要件として、教育訓練費の増加があります。前年度比で5%以上、従業員への研修や資格取得費用が増えていると控除率がさらに上乗せされます。
「うちは社員研修なんてやっていない」という会社でも、外部セミナーの費用や資格取得補助金なども対象になることがあります。まずは一度、経費を洗い出してみてください。領収書と受講記録の保管も忘れずに。
今期の決算前にやること3つ
賃上げ促進税制を活用するために、今すぐ確認すべき点をまとめます。
- 今期の給与総額が前年比で何%増えているか確認する
- 教育訓練費の実績(外部研修・資格取得補助など)を洗い出す
- 申告書作成の際、税理士へ「賃上げ促進税制の別表を入れてほしい」と明示的に依頼する
特に3番目が重要です。顧問税理士に任せているから大丈夫と思っていても、明示的に確認するひと手間で50万円の差が生まれることがあります。
決算が近い方は、今すぐ担当税理士に一本確認の連絡を入れてみることをおすすめします。来期以降のためにも、給与体系や研修制度の整備に着手しておくと、毎年この控除を使いやすくなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。