先日、年商2億の卸売業を経営する社長から、こんな話を聞きました。「決算が終わった後に税理士から『この制度、使えましたね』と言われたんですよ。でもその時はもう申告が済んでいて。取り返しがつかないってわかって、しばらく呆然としてしまいました」
申告が終わってから気づいても、もう手遅れです。節税制度の多くは「申告書を出す前に意思決定していること」が前提です。これは多くの社長が思っている以上に、深刻な問題なのです。
申告前に動かなければ、窓口はもう閉まっている
法人税の節税制度は、決算期が終わる前、あるいは申告期限の前に手を打っていないと使えないものが大半です。でも現実には、決算月を過ぎてから初めて税理士と打ち合わせをする会社が少なくありません。その頃にはすでに、使えたはずの制度の窓口が静かに閉まっています。
「うちの税理士はちゃんとやってくれている」と思っているかもしれません。もちろん多くの税理士は誠実に仕事をしています。ただ、依頼者から「全部チェックして」と明示的に言われなければ、すべての特例を一から洗い出してくれるとは限りません。特に顧問先が多い事務所では、この傾向が強くなりがちです。
少額減価償却特例だけで、初年度に72万円の差が出る
具体的な話をしましょう。法人税の申告で特に見落とされやすいのが「少額減価償却資産の特例」です。
30万円未満の備品・ソフトウェア・工具などは、年間合計300万円まで、購入した年度に全額を経費として計上できます。通常であれば5年や10年かけて減価償却するところ、初年度に一括で損金算入できるわけです。
たとえば、28万円のノートPCを10台購入したとします。合計280万円。通常の定率法(5年)で処理すると初年度に計上できるのは約112万円ですが、特例を使えば280万円の全額が計上できます。差額は168万円、実効税率30%で計算するとおよそ50万円の節税効果になります。
これが複数の備品購入に重なり、さらに後述の制度も取りこぼすと、合計で300万円を超える損失になることも十分あり得ます。
賃上げ促進税制と交際費改正も、見逃している会社が多い
2024年度の税制改正から「賃上げ促進税制」が強化されています。中小企業の場合、前年比1.5%以上の賃上げを実施すると、賃上げ総額の15〜40%を法人税から直接控除できます。節税額が大きいにもかかわらず、「知らなかった」「確認が遅れた」という声を現場でよく耳にします。
交際費の扱いにも変化があります。飲食費の損金算入ルールは近年改正が続いており、以前の基準のまま仕訳を続けている会社が意外と多いのです。「うちの交際費の処理、古いルールのままになっていませんか?」と聞くと、「えっ、変わっていたんですか」という反応が返ってくることは珍しくありません。
制度は毎年少しずつ変わります。昨年使えなかった制度が今年は使えるようになっていることも、その逆もあります。だからこそ、毎年「使える制度の棚卸し」をしておくことが大切です。
対策は「一言」だけ。でも、その一言を言っている社長は少ない
対策は、実はとてもシンプルです。次回の税理士との打ち合わせで、こう伝えてください。
「今期使える特例を全部チェックして、見落としがないか確認してほしい」
たったこれだけで、税理士側の動き方が変わります。洗い出しを明示的に依頼されれば、顧問税理士も改めて制度の適用可否を一から確認してくれます。もし「そういった制度は特にないですね」という返答しか来ないようであれば、一度セカンドオピニオンを取ることも選択肢に入れてみてください。
あわせて、決算の2〜3ヶ月前から節税の打ち合わせを始める習慣をつけることをおすすめします。申告直前では手遅れになる制度が多いためです。
毎年の申告が終わった後に後悔するのは、もうやめましょう。「去年取りこぼした300万円」は戻ってきませんが、「今年からの300万円」はまだ間に合います。決算期が来る前に、ぜひ一度顧問税理士に声をかけてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。