「また今年も採用に数百万かかった。何か節税できないですか?」
先日、製造業を営む社長からそんな相談を受けました。求人広告の掲載費、人材紹介会社への手数料、入社後の研修費用……採用って、実際にやってみると想像以上にお金がかかります。多くの社長が「採用はコスト」と割り切ってしまいがちですが、実はここに大きな節税のチャンスが隠れています。
今回は、社員を採用したときだけ使える節税策を、節税額が大きい順にランキング形式でご紹介します。
第3位:採用費はすべて経費で落とせる
まず基本の確認から。求人広告費、ハローワーク掲載費、人材紹介会社への紹介手数料、これらは全額が損金算入できます。つまり、かかった金額をそのまま経費として計上できます。
「当たり前じゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、意外と領収書の管理が甘くなる会社も多いんです。採用担当者の交通費や、書類選考・面接に動いた社員の労力なども含め、採用活動全体のコストをきちんと記録しておくことが大切です。
仮に採用費が100万円かかったとすると、法人税率33%で計算すれば約33万円の税負担が軽くなります。年間で複数人採用する会社なら、この積み上げは決して小さくありません。制度として特別なことは何もないですが、「当然の権利」をきちんと使い切ることが第一歩です。
第2位:中退共に加入して退職金を全額経費に
中小企業退職金共済、通称「中退共」をご存知でしょうか。国が後押しする退職金制度で、会社が掛金を払いながら従業員の退職金を積み立てていく仕組みです。
節税面でのポイントは明快です。掛金は月5,000円から3万円の範囲で設定できますが、これが全額経費になります。上限の月3万円に設定すれば年間36万円が損金算入され、税率33%なら約12万円の節税です。
さらに、新たに採用した従業員を加入させた場合、最初の12か月間は掛金の一部を国が補助してくれます。新規加入なら最大で月5,000円が国庫から出るため、会社の実質負担を抑えながら退職金を積み立てられます。
採用後すぐに手続きができるので、入社手続きと同時に進める会社も多いです。退職金制度を整備することで求職者へのアピールにもなる、一石二鳥の制度です。
第1位:賃上げ促進税制で最大130万円以上の法人税控除
ここが今日の本題です。この制度を知っているかどうかで、同じ採用をしても手元に残るお金がまったく変わります。
賃上げ促進税制とは、前年と比べて給与総額が増加した場合に、その増加額の一定割合を法人税から直接差し引ける制度です。「節税」と言いましたが、正確には「税額控除」なので、利益から引くのではなく税金そのものから引けます。この違いが大きい。
具体的に試算してみましょう。年収300万円の従業員を1人採用すると、給与総額は300万円増えます。中小企業で、一定の要件を満たした場合、この増加額に対して最大45%を法人税から控除できます。300万円 × 45% = 135万円。つまり最大で130万円超の税金がそのまま手元に残る計算になります。
ただし、最大45%の控除率を得るにはいくつかの条件を積み上げる必要があります。中小企業であること、給与増加率が一定水準以上であること、さらに従業員への教育訓練費を増やすなど、追加要件を満たすごとに控除率が段階的に上がる仕組みです。自社がどの水準に当てはまるかは、顧問税理士と一緒に試算するのが確実です。
また、この制度は税制改正のたびに内容が見直されます。2026年4月時点の情報をもとに解説していますが、適用年度の制度を必ず確認するようにしてください。
採用は「コスト」ではなく「節税の起点」
採用費を嫌がる社長は多いですが、見方を変えれば採用は複数の節税策を同時に発動できるタイミングでもあります。採用費の損金算入で30万円台、中退共で10万円台、賃上げ促進税制で100万円超と、うまく組み合わせれば1人採用で100万円単位の節税が十分に現実的な話になってきます。
今期に採用を予定しているなら、あるいはすでに採用済みであれば、賃上げ促進税制の要件を今すぐ確認してみてください。申告時に必要書類を揃える必要があるため、決算前に動いておくことが肝心です。顧問税理士に「今期の採用で賃上げ税制は使えますか?」と一声かけるだけで、大きく変わる可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。