先日、飲食チェーンを経営するある社長と話していて、こんな言葉が返ってきました。
「今年、スタッフの給料かなり上げたんですよ。でも税金は全然変わらなくて……」
その瞬間、私は思いました。あ、これ、絶対に使い忘れてる、と。
賃上げをしたのに、賃上げ税制を使っていない。これ、かなりもったいないんです。
「税率控除」と「税額控除」、破壊力がまるで違う
節税の話をするとき、「控除」という言葉が出てきますが、実は大きく2種類あります。「所得控除(課税所得を減らす)」と「税額控除(税金そのものを減らす)」です。
賃上げ税制はこの税額控除に分類されます。つまり、計算された法人税の金額から、直接引き算できるということ。
具体的に考えてみましょう。仮に法人税が500万円だったとして、50万円の税額控除があれば、支払う税金はそのまま450万円になります。所得控除のように「課税所得を減らしてから税率をかける」という間接的な話ではないので、1円控除されれば1円そのまま手元に残る感覚です。この違い、伝わりますか?
2024年度、中小企業への優遇はかなり手厚い
2024年度税制改正で、中小企業向けの賃上げ税制はさらに使いやすくなりました。
基本的な仕組みはこうです。従業員への給与総額が前年度と比べて1.5%以上増加した場合、その増加額の30%を法人税から控除できます。さらに2.5%以上の増加になると、控除率は**35%**に上がります。
ここまでで十分インパクトがありますが、もう一つ見逃せないポイントがあります。
教育訓練費を増やすと、控除率がさらに上乗せされる
社員研修や資格取得支援など、教育訓練費を前年比で10%以上増やした場合、控除率にさらに10%が上乗せされます。
つまり、給与を2.5%以上増やしつつ、教育訓練費も10%以上増やせば、最大45%の税額控除が受けられる計算になります。
給与総額の増加額が100万円だったとすれば、そのまま45万円が税金から消えるわけです。これは決して小さな話ではありません。
社員のスキルアップ投資と賃上げを同時に進めている会社にとっては、ほぼ「やらない理由がない」制度と言ってもいいくらいです。
「うちは関係ない」と思っているなら、一度立ち止まって
よくある誤解として、「うちは給料を少ししか上げていないから対象外だろう」と決めつけてしまうケースがあります。でも1.5%という数字、案外クリアしている会社は多いんです。
たとえば、給与総額が年間3,000万円の会社であれば、45万円の増加で要件を満たします。月あたりに換算すると3〜4万円の水準です。ここ数年の物価上昇や最低賃金の引き上げ対応で、気づかないうちにクリアしているケースも少なくありません。
まず「今年の給与総額、前年比でどのくらい増えたか」を確認するところから始めてみてください。
適用には要件があり、計算も複雑
一点、正直にお伝えしておくと、この制度は「要件を満たしていれば自動的に適用される」ものではありません。法人税申告の際に、所定の書類を添付して申告する必要があります。
また「給与等支給額」の計算方法にも細かいルールがあり、対象となる従業員の範囲や、前年度との比較方法なども定められています。役員報酬は原則として含まれない点なども要注意です。
「なんとなく上げたから使えるだろう」という感覚だけで進めると、後から要件を満たしていなかったというケースも起こりえます。
今期の決算前に、必ず確認を
賃上げ税制は、決算を締めてから「あの時使えたのに」と後悔しても取り返しがつきません。適用できるかどうかは今期中の給与実績と前年比の数字にかかっているので、決算前に一度、顧問税理士に「今年、賃上げ税制使えますか?」と聞いてみてください。
教育訓練費の上乗せを狙うなら、今期中に研修費用を動かすという選択肢もあります。残り数ヶ月で動けることは意外とあります。
賃上げをしているのに、税制の恩恵を受け損ねている社長が本当に多いです。ぜひ今日、一本確認の連絡を入れてみてください。それだけで数十万円が変わるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。