先日、ある製造業の社長からこんな連絡が来ました。
「顧問税理士から『事業承継税制の特例、まだ申請してないんですか?』と言われたんですが、これって急ぎですか?」
急ぎです。かなり急ぎです。
2027年3月31日、この日付を手帳に書き込んでください
日本には、会社の株式を後継者に引き継ぐ際の相続税・贈与税を、最大100%猶予できる制度があります。「事業承継税制の特例措置」です。
株式評価が高い会社を引き継ぐと、後継者に多額の税金がかかります。たとえば株式評価が3億円の会社なら、相続税だけで1億円前後になることも珍しくありません。この特例を使えば、その税負担を実質ゼロに近い形で先送りできます。
ただし、この特例を使うには都道府県への「特例承継計画」の申請が必須です。そして、その申請期限が2027年3月31日。現時点で延長の予定は一切ありません。
「申請するだけ」なのに、なぜ多くの社長が後回しにするのか
特例承継計画とは何かというと、「この会社を、こういう後継者に、こうやって承継する予定です」という計画書を都道府県に届け出るものです。
申請イコール即納税が発生するわけでも、すぐに株を移すわけでもありません。あくまで「計画を届け出る」だけです。ただ、この届出をしておかないと、実際の承継時に特例が使えなくなります。
「まだ後継者が決まっていない」「今すぐ株を渡すつもりはない」という社長ほど後回しになりがちです。でも、計画書は今の段階で出しておけばいい。後から後継者や承継時期を変更することもできます。
株式評価が3億円を超えると、数字が一気に怖くなる
中小企業でも、利益が安定していて内部留保が積み上がっていたり、土地や設備を多く持っていたりすると、株式評価は思いのほか高くなります。年商5億円規模の製造業でも、株式評価が3〜5億円になるケースは珍しくありません。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」。法定相続人が3人いても合計4,800万円しかありません。株式評価が3億円なら、2.5億円超が課税対象になります。最高税率は55%ですから、相続税が1億円を超えるケースも十分ありえます。
これが、特例を使うと猶予されます。後継者が会社を継続して経営する限り、実質的に税負担なしで株式を引き継げるのです。
申請期限を逃したら、後から挽回できない
2027年3月31日を過ぎてしまったら、特例承継計画はもう出せません。つまり、この特例措置は永遠に使えなくなります。
「どうせ延長になるだろう」と思っている方もいるかもしれません。この特例措置は2009年に始まり、一度は延長されてきた経緯があります。ただ、現在の政府方針では「2027年3月末が本当の締切」です。
万が一、申請していない状態で社長が急逝した場合、後継者は通常の相続税を全額支払う必要が生じます。準備不足のまま億単位の納税が発生すれば、経営に直結する打撃になります。最悪の場合、会社の土地や設備を売って税金を払う、という事態にもなりかねません。
まず顧問税理士に「申請状況」を確認してください
特例承継計画の申請は、税理士や認定支援機関(商工会議所、中小企業診断士など)と一緒に進められます。書類の量はそこまで多くなく、比較的スムーズに手続きできます。
確認しておきたいポイントは3つです。
- 後継者候補は誰か(まだ決まっていなくても申請は可能)
- 現在の株式評価はどのくらいか
- 顧問税理士が特例承継計画を把握・提案しているか
「税理士に任せているから大丈夫」と思っていても、顧問税理士が特例承継計画を積極的に提案していないケースは意外に多いです。一度、明示的に確認してみることをおすすめします。
2027年3月まで、残り約1年4ヶ月です。余裕があるように見えて、税理士との打ち合わせ・書類の準備・都道府県への提出と審査を考えると、時間はそれほど多くありません。
「うちはまだ先の話」と思っていた社長ほど、申請だけは今期中に済ませておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。