先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「息子に会社を渡そうと思っているんだけど、税金ってどのくらいかかるの?」

製造業を営む60代の社長で、業績は順調。従業員も30名を超え、長男が後継者として5年ほど前から修行を積んでいます。一見、理想的な事業承継のシナリオです。

ところが、税理士に自社株の評価額を計算してもらったところ、数字を見た瞬間に表情が変わりました。「これが全部、相続財産になるの?」と、思わず声が出てしまったそうです。

自社株の評価額は、見えないリスクになっている

中小企業オーナーにとって、会社の株式は最大の資産です。と同時に、事業承継の場面では最大の「リスク」になる可能性があります。

たとえば、会社の純資産が3億円あるとします。非上場株式の評価額がそのまま相続財産に計上されると、相続税の実効税率が仮に30%なら約9,000万円の税負担が発生します。現金で払えればまだいいですが、多くの場合、手元にそれだけの現金はありません。

「会社は息子に渡したいのに、税金を払うために自社株を売り戻すことになる」——これが、事業承継の現場でリアルに起きていることです。業績が良ければ良いほど、株価が高くなり、税負担が重くなるという皮肉な構造があります。

贈与税・相続税が100%猶予される制度がある

この問題を根本から解決できる制度があります。「事業承継税制の特例措置」です。

後継者に自社株を贈与または相続させる際に、本来かかるはずの贈与税・相続税の100%が猶予されます。猶予というのは、一定の要件を満たす間は支払いが免除され続け、最終的には免除になる仕組みです。

通常の事業承継税制(80%猶予)より有利なのが「特例措置」で、2018年に時限立法として導入されました。適用を受けるためには都道府県に**「特例承継計画」**を提出している必要があります。

そして、もっとも重要な条件が一つあります。承継の実行は2027年12月31日まで。これが特例措置に定められた法定期限です。

計画提出はすでに締め切られている

「まだ時間がある」と感じる社長も多いですが、特例承継計画の新規提出は2024年3月末で締め切られています。今から新たに申請することはできません。

今この記事を読んでいる社長がまず確認すべきことは、「自社がすでに特例承継計画を提出しているかどうか」です。

提出済みであれば、2027年12月末までに実際の贈与・相続を実行することで適用を受けられます。未提出の場合は特例措置の対象外となり、通常の80%猶予か、株価引き下げなど別の対策を組み合わせる必要があります。まず顧問税理士に確認してみてください。

上手く活用している社長に共通する行動

特例措置を使いこなしている社長には、共通した行動パターンがあります。

まず、毎年の株価評価を欠かさないこと。自社株の評価額は決算内容によって毎年変動します。業績が良い年は評価額が上がり、贈与時に猶予される税額も増えます。逆に、大きな設備投資をした年や利益が低下した年は評価額が下がることもある。このタイミングを把握しているかどうかで、戦略の選択肢が変わってきます。

次に、贈与のタイミングを計画的に設計していること。「評価額が低い年に贈与する」という発想は節税の基本です。設備投資の計画、決算対策、後継者の準備状況——複数の要素を重ね合わせて、最もコストが低い時期を選びます。2年という期間を逆算して動くと、選択肢が広がります。

そして、株式の移転と経営権限の移転をセットで設計していること。税務的な要件を満たすだけでなく、実際の意思決定権を段階的に後継者に移すプロセスを並走させています。株式だけ渡して社長が現場に居続けるパターンは、後継者の自立を妨げるリスクもあります。

「まだ先の話」が一番危ない理由

事業承継で後悔する社長に共通しているのは、「もっと早く動いておけばよかった」という言葉です。

社長が元気なうちに計画すれば、株価が有利なタイミングを選べます。後継者の育成にも時間をかけられます。でも、健康状態が変わってから急いで動くと、評価額のタイミングを選ぶ余裕がなく、手続きも複雑になります。

2027年末という期限が見えている今が、動くべき最後のタイミングかもしれません。まず「特例承継計画を提出しているか」を税理士に確認し、提出済みであれば今年の決算後に承継スケジュールの設計を始めることをおすすめします。

自社株にかかる何千万円もの税負担が回避できるかどうか——それはこの制度を「知っているかどうか」だけで決まります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。