先日、ある機械部品メーカーの社長と話していたとき、こんな一言が出ました。「息子に会社を渡そうと思って、試算してもらったら贈与税が3,000万円超えてた。そんな金、どこから出すんや」と。

社長の会社は年商約8億円、業績は安定しています。ただ、長年かけて積み上げてきた純資産と収益力が、自社株の評価額を押し上げていました。「株を渡すだけ」のことに、数千万円の税金がかかる。これが事業承継の最初の壁です。

ただ、今のうちに動けば、この壁を乗り越えられる可能性があります。

非上場株式の贈与税、なぜこんなに高いのか

上場していない中小企業の株式は、「取引相場のない株式」として税務上の評価が行われます。会社の収益力や純資産が高いほど評価額も上がり、それに応じて贈与税が跳ね上がる仕組みです。

たとえば株式評価額が1億円の場合、一括贈与すると贈与税は特例税率でも約4,700万円。評価額が3億円なら、1億円を超えることもあります。現金で準備できる金額では到底ない、というケースが大半です。

事業を次の世代に渡したいだけなのに、億単位の現金が必要になる。それが現実です。

贈与税を実質ゼロにできる「特例措置」がある

そこで活用できるのが、事業承継税制の**特例措置(法人版)**です。

シンプルに言えば、「後継者に株を贈与したとき、贈与税の全額を猶予する制度」です。猶予というと先送りに聞こえますが、要件を満たし続けることで、最終的に税額が免除になります。実質ゼロ、という意味です。

通常の一般措置と比べると、特例措置の強みは対象株数に上限がなく、猶予率も100%という点。会社全体の株式を一括で渡しても、贈与税がまるごと猶予されます。

猶予された税金は、後継者が経営を続ける限り課税されません。さらに次の世代に承継する、または一定の免除事由が生じると、猶予額がそのまま免除になります。

リミットは2027年12月末

この特例措置には期限があります。後継者への株式贈与・相続の実行期限は2027年12月31日です。この日を過ぎると、特例措置の適用はできません。

「まだ先の話」と感じた社長ほど、注意が必要です。承継計画の策定、後継者との合意形成、税理士・弁護士との調整、行政への届出——実際に動いてみると、1〜2年かかることは珍しくありません。

なお、特例承継計画の都道府県への提出期限はすでに終了しています。ただし、計画を既に提出済みであれば、2027年末まで贈与・相続の実行が可能です。まだ提出していない場合は、対象株数に上限のある一般措置の活用を検討することになります。

主な適用要件(概要)

特例措置を使うには条件があります。細かい要件は専門家に確認が必要ですが、大枠を把握しておきましょう。

  • 中小企業者の要件を満たすこと
  • 先代経営者が株式の過半数を保有していること
  • 後継者が承継後に代表者に就任すること
  • 承継後5年間、雇用の8割以上を維持すること(実務上は一定の緩和あり)
  • 都道府県への特例承継計画の提出(※提出期限は終了)

適用後も、後継者が株式を売却したり代表を退任したりすると、猶予が取り消されて税金が発生することがあります。制度の性格上、承継後の経営継続が前提になっています。

知らずに数千万円払った社長は、今も多い

この特例が整備されたのは2018年のことです。それなりに時間が経ちましたが、「知らなかった」という社長は今も少なくありません。

とくに深刻なのは、相続が突然発生したケース。社長が急逝し、準備のないまま株を相続したら多額の相続税が課された——そういう話を、今でも現場では聞きます。事前に計画を立てていれば使えた制度が、タイミング的に間に合わなかった。取り返しのつかない失敗です。

承継は「準備した人だけが得をする」分野です。知識の差が、数千万円の差になります。

今すぐできること、一つだけ

特例の活用を考えるなら、まず顧問税理士に「うちの株の評価額を試算してほしい」と頼んでみてください。

評価額がわかれば贈与税の概算も出ます。その数字を見てから、特例の適用可否・承継スケジュール・後継者との合意形成を順番に進めていく——この流れが一番スムーズです。

2027年末まであと1年半ほど。まだ事業承継を「将来の話」として棚上げにしているなら、今期中に一度だけ、税理士と腰を据えて話す時間を作ってみてください。その1時間が、数千万円を守ることになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。