先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。「息子に会社を渡したいんだけど、税金のことを考えると踏み出せなくて…」。話を聞いてみると、自社株の評価額が約2億円。何も対策しないまま相続が発生した場合、相続税は4,000万円を超える計算になります。

その社長、「そんなにかかるなら、息子に現金を残しておかないといけないな」と肩を落としていました。でも実は、きちんと制度を活用すれば、その負担をほぼゼロに近づけることができるんです。

知らないだけで何千万円も損している現実

事業承継にまつわる税制優遇は、大きく3つあります。どれも「知っている人だけが得をする」タイプの制度で、活用しないまま承継を進めてしまうと、本当にもったいないことになります。

順番に見ていきましょう。

① 事業承継税制|自社株の贈与税・相続税が最大100%猶予

まず一番インパクトが大きいのが、「事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度)」です。

簡単に言うと、後継者が自社株を受け継いだときにかかる贈与税や相続税を、最大100%猶予してくれる制度です。猶予というのは「とりあえず払わなくていい」ということで、要件を満たし続ければ最終的に免除になるケースもあります。実質ゼロ、です。

冒頭の社長のケースで言えば、評価額2億円の株式にかかる相続税4,000万円超が、この制度を使うことでゼロになり得るわけです。これは見逃せません。

ただし、この制度には事前の申請や、承継後も一定の雇用維持などの要件があります。「使いたいと思ったときにすぐ使える」ものではないので、承継を考え始めた段階から早めに動いておくことが重要です。

② 小規模宅地等の特例|会社の土地の評価が最大80%減

次に、「小規模宅地等の特例」です。これは、被相続人が事業に使っていた土地について、相続税の計算上の評価額を最大80%減らしてくれる制度です。

例えば、会社の敷地として使っている土地の評価額が1億円だったとして、この特例が使えれば2,000万円として計算できます。差額8,000万円には課税されないわけですから、相続税の圧縮効果は非常に大きいです。

この特例は「特定事業用宅地等」として適用される場合、上限400㎡まで対象になります。本社や工場の土地を持っている社長には、特に知っておいてほしい制度です。

③ 経営承継円滑化法による金融支援|納税資金の確保にも使える

3つ目は、少し毛色が違います。「経営承継円滑化法」に基づく金融支援制度です。

事業承継税制で納税が猶予されているとはいえ、状況によっては納税が必要になるタイミングが来ることもあります。そういったときのために、信用保証の特例や低利融資といった形で、納税資金を調達しやすくする仕組みが用意されています。

税制だけでなく「資金繰り」の面でもサポートしてくれるのがこの制度の特徴で、事業承継税制と組み合わせて活用するケースが多いです。

3つを組み合わせると、効果はさらに大きくなる

上の3つは、それぞれ単独でも強力ですが、組み合わせることでさらに効果を発揮します。自社株には事業承継税制、土地には小規模宅地等の特例、そして万が一の納税には経営承継円滑化法による資金調達——というように、承継の全体像を見渡しながら設計していくことが大切です。

「うちには関係ない」と思っている社長ほど、実は対象になっていることが多いのも事実です。業種も規模も問わず、非上場の中小企業であれば基本的に検討の余地があります。

動き始めるなら、早いほどいい

事業承継の税制優遇は、どれも「要件を満たすための準備期間」が必要です。特に事業承継税制は、都道府県への申請や計画書の提出など、手続きが複数あります。相続が発生してから慌てて動いても、間に合わないことがほとんどです。

「まだ先の話だから」と後回しにしている社長こそ、今すぐ税理士に相談してほしいと思います。対策にかけた時間が、そのまま節税額に直結する制度です。

自社株の評価額や土地の状況を一度整理してみるだけで、「こんなに対策の余地があったのか」と驚くケースは珍しくありません。ぜひ承継を考え始めた今のタイミングで、専門家と一緒に全体像を確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。