先日、こんな相談を受けました。「三原さん、役員報酬って毎年変えなきゃいけないんですか?」と聞いてきたのは、都内で建設会社を経営する社長でした。
「変えなきゃいけない、ということはないですよ。ただ、変えたいなら今しか変えられないんです」と答えると、その社長は少し驚いた顔をしていました。
変更できる期限は年に一度しかない
役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。毎月同じ金額を支払わないと、会社の費用(損金)として認められないという税務上のルールです。途中で金額を変えてしまうと、その変更分が損金にならなくなります。
変更できるタイミングは、事業年度の開始から3ヶ月以内と決まっています。3月決算の会社なら6月末が締め切りです。この期限を1日でも過ぎると、原則として次の期末まで変更できません。今この時期を逃すと、1年間は変えられないということになります。
「去年と同じ金額でいいか」と流してしまいがちですが、実はそれが年間100万円近い損につながっているケースがあるのです。
手取りに影響する2つの要素
役員報酬の金額が手取りに大きく影響するのは、主に2つの要素があるためです。
ひとつは社会保険料。健康保険と厚生年金を合わせると、労使合計でおよそ30%近くになります。報酬が高くなればなるほど、この負担も膨らみます。会社側の負担分も含めると、「1円の報酬増加=1円の手取り増加」にはならないことがよくわかります。
もうひとつは所得税・住民税。こちらは報酬が高くなるにつれて税率が上がる累進課税です。高い報酬をもらっても、上がった税率ぶんだけ手元に残る割合が下がっていきます。
この2つが組み合わさることで、「報酬を上げたのに手取りがほとんど増えなかった」「むしろ会社の資金繰りが苦しくなった」という現象が起きるのです。
高すぎても低すぎても損をする
「じゃあ低く抑えた方がいいのか?」というと、そうでもありません。
役員報酬を低く設定すると、会社に利益が残ります。中小企業の法人税は所得800万円以下の部分が約15%と、個人の所得税率より低いケースも多いため、会社に利益を残した方が全体の税負担が小さくなることもあります。
ただし、会社に残した利益はそのままでは個人の財産になりません。配当として受け取れば追加の税金がかかりますし、そのまま積み上がれば将来の相続財産になります。低すぎれば将来リスクを積み上げることにもなるのです。
**役員報酬の最適額は、その人の状況によってまったく違います。**同じ年商5,000万円の会社でも、家族構成や他の収入、将来の相続をどう考えるかで、最適な水準は変わります。
100万円の差はどこから来るのか
少し具体的に見てみましょう。
年齢45歳、扶養家族1人の社長が、役員報酬を月100万円(年1,200万円)から月80万円(年960万円)に引き下げたケースで試算してみます。
健康保険・厚生年金の標準報酬月額が下がることで、社会保険料の自己負担は年間で40〜60万円程度軽減されます。さらに法人負担分も同じように軽減されるため、会社のキャッシュフローにも恩恵があります。
加えて、課税所得が下がることで所得税・住民税の合計が年間30〜50万円変わることもあります。合計すると、「なんとなく去年と同じ」でいたことで年間80〜100万円近く手取りが変わる、というのは決して誇張ではありません。
相談するときに用意したい3つの数字
役員報酬の見直しを税理士・社労士に相談するとき、この3つを手元に用意しておくと話が早く進みます。
- 今期の利益見込み(法人税の試算額)
- 現在の報酬に対する社会保険料と所得税の実績
- 来期以降の資金計画(設備投資・借入返済など)
この3つを並べて見ると、「今の水準が適正かどうか」がはっきりしてきます。
3月決算の会社なら6月末、4月決算なら7月末が変更の期限です。まだ今期の役員報酬を検討していないなら、今すぐ決算書を引っ張り出して税理士に連絡を入れてみてください。「去年と同じでいいや」の一言で、100万円単位の損をしているかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。