先日、資産管理会社を持つ社長から電話がかかってきました。「10年前に法人名義で買った不動産をそろそろ売ろうと思っているんですが、税金はどのくらいになりますか?」というご相談です。
試算をお見せしたところ、「え、個人で売るよりこんなに高いんですか…」と絶句されていました。このパターン、実は珍しくありません。
最初に結論を言います
法人が不動産を売ると、個人が売る場合と比べて税率が最大1.7倍になります。
個人が5年超保有した不動産を売却した場合、「長期譲渡所得」として約20%の税率が適用されます(所得税15%+住民税5%)。これが一つの基準になります。
一方、法人が同じ不動産を売ると、売却益は「法人の利益」として通常の法人税が課税されます。所得800万円を超える法人の実効税率は最大約34%。個人の20%と比べると、14ポイントの差があります。
1億円の売却益で計算すると
数字にすると一気に実感が湧きます。
仮に1億円の売却益が出たとして比較してみましょう。
個人(5年超保有)であれば税負担は約2,000万円。法人であれば約3,400万円。同じ不動産、同じ利益なのに、名義が法人か個人かというだけで1,400万円の差が生まれます。
これが「法人不動産の出口の罠」と呼ばれる理由です。
なぜ法人のほうが高くなるのか
個人の不動産売却には「分離課税」という仕組みがあります。給与所得などと切り離して、20%の優遇税率を使えるルールです。長期保有に対するインセンティブとして税制が設計されているわけです。
ところが、法人にはこの分離課税の仕組みがありません。不動産の売却益は、商品を売った利益も、賃料収入も、全部ひっくるめて「法人所得」として扱われます。つまり、法人税の通常税率がそのまま乗ってくるわけです。
法人税率は所得に応じて変わりますが、800万円超の部分には実効税率で約33〜35%が課税されます。不動産売却益が加わると一気にこのゾーンに突入するケースが多く、結果として税負担が重くなります。
法人名義で持つこと自体は悪くない
誤解しないでほしいのですが、法人で不動産を持つこと自体を否定したいわけではありません。
賃料収入を法人で受け取ることで役員報酬として分散できる、相続対策として活用できる、融資を引きやすいなど、法人名義のメリットは確かにあります。
問題は**「出口を考えずに購入してしまう」**ことです。購入時のメリットだけを見て、売却時の税コストを試算していないケースが非常に多い。
購入前に必ずやっておくべきこと
法人で不動産購入を検討しているなら、少なくとも次の3点は事前に確認しておくことをおすすめします。
一つ目は、何年後に売る可能性があるかのシナリオ設定です。10年以上の長期保有を前提にするなら減価償却の恩恵も大きくなりますが、それでも出口コストの試算は必要です。短期で売却する可能性があるなら、さらに慎重に検討すべきです。
二つ目は、売却時の法人所得の想定です。不動産売却益が乗ると、法人所得が大幅に増える年が生まれます。そのタイミングで役員報酬をどう設定するか、他の損金繰り越しをどう使うか、事前に設計しておくだけで税コストが変わります。
三つ目は、個人名義との比較検討です。どちらが良いかは一概には言えませんが、入口の時点でトータルコストを比較するのが正しい判断の順序です。
すでに法人名義で持っている場合は
「もう法人名義で買ってしまった」という方も、今から動ける選択肢はあります。
売却タイミングを法人所得が少ない期に合わせる、役員報酬の調整で課税所得をコントロールする、賃料収入で十分に投資回収してから売る——焦って売ることが一番損です。
法人で不動産を所有しているなら、まず「いつ、どのように売るか」を今の税理士と一緒にシミュレーションしておくことをおすすめします。その1時間の打ち合わせが、数百万〜1,000万円単位の差を生む可能性があります。
購入は感情で動きやすいですが、出口は数字で決めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。