先日、不動産投資を始めたばかりの社長から、こんな相談を受けました。
「去年、区分マンションを2室買ったんですが、確定申告してみたら想像以上に税金を持っていかれて。不動産って節税になるって聞いてたのに、何かおかしいですよね?」
その社長、役員報酬が年2,000万円。不動産収入が年間で300万円ほどありました。問題は、物件を個人名義で持っていたことです。
個人保有の落とし穴——「合算課税」という壁
個人で不動産を所有すると、不動産所得は給与所得や役員報酬と合算して課税されます。これが思わぬ落とし穴になります。
年収2,000万円の社長はすでに所得税・住民税の合算税率が40〜45%のゾーンにいます。そこに不動産収入が300万円上乗せされると、実効税率は44%を超えることも珍しくありません。
「不動産で節税できる」という話は本当です。ただしそれは、減価償却費を使って不動産所得を圧縮できる場合の話。高収入の社長が個人で持つと、残った利益には容赦なく高い税率がかかってしまうのです。
法人に移すと、税率がここまで変わる
同じ物件を法人(資産管理会社)で持った場合はどうなるか。
法人税の実効税率は、中小法人であれば年800万円以下の所得に対して約22〜23%、それを超えても約34%程度です。個人の44%超えと比べると、税率差は10〜20ポイント以上になります。
仮に不動産から年間500万円の利益が出るとします。
- 個人保有:実効税率44% → 税負担 約220万円
- 法人保有:実効税率30% → 税負担 約150万円
差額は年間70万円。10年保有すれば700万円の差になります。「節税額が2倍変わる」という表現は、決して大げさではないのです。
法人だからこそ使える節税策がある
法人保有のメリットは、税率の低さだけではありません。
不動産収益を役員報酬として分散できます。配偶者や子どもを役員にして報酬を振り分けることで、所得を複数人に分散し、累進課税の税率を全体として下げる効果があります。家族への給与は個人では原則認められませんが、法人であれば適正額の範囲で経費にできます。
さらに、退職金への積み立ても可能です。法人が積み上げた利益を将来の退職金として支給すれば、退職所得控除が使えます。退職金は課税上かなり優遇されているため、長期保有と組み合わせたときの節税効果は絶大です。
個人でできる節税策は限られています。法人という器を持つことで、打ち手の選択肢が一気に広がります。
「法人にすればいい」が絶対解ではない
ただし、注意点もあります。
法人を維持するには毎年の決算費用や社会保険料など固定コストがかかります。不動産の規模が小さいうちは、節税効果よりもコストが上回ることがあります。
また、個人で持っている不動産を法人に移す場合には、譲渡所得税の問題が生じます。「これから取得する物件を最初から法人名義にする」のか、「既存物件を法人に売却する」のかで、戦略はまったく異なります。
法人化のタイミングと方法は、現在の収益規模・物件数・他の所得との兼ね合いによって大きく変わります。「とりあえず法人で」ではなく、数字で試算してから判断することが大切です。
まず「試算の一言」を税理士に投げてみる
給与所得が高いほど、法人保有のメリットは大きくなります。目安として、役員報酬が年収1,500万円を超えているなら、法人保有の検討価値は十分あります。
すでに個人で不動産を持っている場合でも、次の1棟から法人名義にする方法や、資産管理会社を使って収益構造を整える方法があります。焦って動く必要はありませんが、知らないまま個人で持ち続けるのはもったいないです。
今期の決算を前に、一度、顧問税理士に「法人保有と個人保有、どちらが有利か試算してほしい」と一言投げてみてください。その一言が、数百万円単位の節税につながることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。