先日、ある社長からこんな相談を受けました。年商2億円の製造業を経営するA社長、個人名義でワンルームマンションを5室ほど保有していて、毎年の家賃収入は600万円ほどあるとのこと。

ところが確定申告を終えるたびに「税金でごっそり持っていかれる」と苦笑するんです。所得税の税率表を初めてじっくり見たとき、思わず手が止まったと言っていました。

実はこの悩み、不動産を持つオーナー社長のあいだでは非常によく聞く話です。そして、解決策は意外とシンプルです。不動産を法人名義で持つ、それだけです。

個人名義の不動産に潜む「重税の罠」

個人で不動産を保有する場合、家賃収入は「不動産所得」として所得税の対象になります。給与所得や事業所得と合算されるため、すでに高い税率ブラケットにいる社長ほど、不動産収入がそのまま最高税率で課税される構造になっています。

住民税を合わせると最大55%。家賃収入が1,000万円あっても、税引き後に手元へ残るのは450万円程度ということも十分ありえます。一生懸命に物件を管理して得た収入が、半分以上税金に消えていく現実です。

法人にすると「経費の引き出し」が一気に広がる

法人名義で不動産を保有すると、計上できる経費の幅が格段に広がります。減価償却費、管理費、修繕積立金、火災保険料、そしてローンの利息。これらをすべて法人の経費として処理できます。

個人でも必要経費として認められるものはありますが、法人の方が経費認定の余地が広いケースが多く、結果として課税所得を大きく圧縮できます。そして法人の実効税率は、会社規模にもよりますが概ね23〜30%程度。最大55%の個人所得税と比べると、20〜30ポイントもの差があります。

具体的な数字で見てみましょう。不動産関連の経費が年間650万円あるとします。法人実効税率を23%として計算すると、650万円 × 23% = 約150万円。この金額が、個人名義のままだったら消えていた税負担として、丸ごと手元に残る計算になります。

「経費=節税額」という誤解に要注意

ここで一つ、重要な話をしておきます。よく誤解されるのですが、「経費が650万円=節税額650万円」ではありません。

節税額は「経費の金額 × 実効税率」で計算します。650万円の経費を使っても、手元に増えるお金は150万円(税率23%の場合)です。経費はあくまでも支出ですから、節税効果はその一部にすぎないわけです。

ここを混同して「経費をたくさん使えば節税になる」と過剰な支出に走ってしまうのは本末転倒です。節税額の試算は、必ず税理士と一緒に確認するようにしてください。

法人移転を検討するなら、コストの試算が先

「今すぐ個人名義を法人に移したい」と思った方もいるかもしれません。ただ、個人から法人への不動産移転には、登記費用や不動産取得税、場合によっては譲渡所得税がかかることがあります。

これらの初期コストと将来の節税効果を比較した上で、移転する価値があるかどうかを判断する必要があります。新規取得であれば最初から法人名義にするのがシンプルですが、既存物件については一度税理士に試算してもらうのが確実です。

また、法人と個人の間で不動産を取引する際は、適正な時価で行わないと税務署から指摘を受けるリスクがあります。安易な価格設定は後々大きなトラブルになりかねないので、専門家のサポートのもとで進めることをおすすめします。

まだ個人名義のまま持っているなら、今期中に一度試算を

不動産を個人名義で持ち続けている社長は、今の税負担が「当たり前」だと感じていることが多いです。でも実際は、法人という選択肢を選ぶだけで、年間150万円単位の差が生まれることも珍しくありません。

決算が近づいてから慌てるより、今期のうちに一度シミュレーションを依頼してみてください。法人化のタイミングや移転コストも含めて試算することで、中長期での節税プランが具体的に見えてきます。知っているかどうかだけで、手元に残るお金がこれだけ変わる話です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。