先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。

「個人口座でけっこう株をやってるんですけど、税率20%ちょっとで固定なんですよね。これって有利じゃないんですか?」

確かに、所得税の最高税率が45%まであることを考えると、20%台は低く感じます。でも実は、この「一見有利」な認識が、年間で数十万円以上の損をしているケースを生んでいるんです。

「分離課税20.315%」の見落とされがちなデメリット

個人で株を売って利益が出た場合、税率は申告分離課税で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。これ自体は事実です。

でも問題は「損が出たとき」です。

個人の株式譲渡損失は、本業の給与や役員報酬とは相殺できません。損益通算できるのは、同じ「株式等の譲渡所得」の範囲内だけ。300万円損が出ても、その年の会社の利益とは無関係に、個人の手取りは減ったまま終わります。

法人なら、損失が「節税カード」になる

一方、法人で株式を保有していると、話がまるで変わります。

株式の売却損は、法人の事業利益と損益通算できます。たとえば本業の課税所得が1,000万円あって、株の売却損が400万円あったとします。損益通算後の課税所得は600万円。法人の実効税率を約33%とすると、単純計算で約130万円の節税になります。

「株で損した」が「税金を減らした」に変わる。個人口座では絶対に実現できない芸当です。

利益が出た年も、法人の他の経費と合算されますから、全体的な税負担コントロールの自由度が高まります。

ただし、法人投資には「時価評価」という罠がある

ここまで読んで「よし、全部法人でやろう」と思った方、少し待ってください。

法人で**「売買目的有価証券」**として株式を保有している場合、期末時点で時価評価が義務付けられています。

つまり、売っていなくても含み益があれば、その期に法人税が課税される可能性があります。株価が上がって800万円の含み益が出た年は、一円も受け取っていないのに課税される、という事態が起こりえます。

「その他有価証券」として分類されれば扱いが異なりますが、この分類は取得時の意図や会計処理によって決まり、後から変更するのが難しい場面もあります。適切な処理をしないと、想定外の税負担を抱えることになります。

個人か法人か、判断を分ける3つの軸

正直に言うと、どちらが有利かは「ケース次第」です。ただ、判断のポイントは大体この3つに絞れます。

保有目的: 短期の売買差益を狙うのか、中長期での保有・配当が目的なのかで、税務上の取り扱いが変わります。

所得規模: 役員報酬が高く個人の税率が上がっている方は、個人での株売却益も累進的に重くなるわけではありませんが(分離課税なので)、損益通算の恩恵が受けられるかどうかが効いてきます。

損が出たときのシナリオ: 「株で損が出た年に、会社の利益を圧縮できるか」これが法人投資の節税効果の核心です。毎年安定して法人利益がある方は、法人口座の活用を真剣に検討する価値があります。

今期の決算前に一度、見直してほしいこと

個人口座でコツコツ投資を続けている社長のなかには、「個人の税率が低いから大丈夫」と深く考えずに何年も続けているケースが少なくありません。でも、損失が出るたびに何の恩恵も受けられていないとしたら、それは機会損失です。

法人口座への移行を検討するなら、期末が近づく前に動くのが鉄則です。含み損がある銘柄を年度内に整理して法人利益と相殺するのか、それとも来期の戦略として組み立てるのか、時間的な余裕があった方が選択肢が広がります。

まずは「自分の場合、個人と法人でどちらが有利か」を税理士に試算してもらうところから始めてみてください。意外な数字が出てくることがありますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。