先日、年商3億円の建設業の社長からこんな相談を受けました。「最近、株で少し利益が出たんですが、個人口座のままでいいですか?それとも法人口座の方が得ですか?」
正直なところ、この質問には一言では答えられません。状況によって答えが180度変わるからです。今日は、その「状況」を整理しながら、どちらが得かを一緒に考えてみましょう。
税率だけ比べると「個人有利」に見える
まず数字から確認します。個人で株を売って利益が出た場合、所得税・住民税を合わせた分離課税の税率は20.315%です。一方、法人(年間所得が800万円以下の場合)の実効税率は約22%。
この数字だけ見ると、「個人口座で運用した方が税率が低い」と思いますよね。確かに純粋に税率だけを比較すれば、その通りです。
でも、法人投資の本当の強みはここではありません。「合算できる」という一点に尽きます。
法人の最大の武器は「損益通算」
事業を運営していると、どうしても利益が出ない年があります。そういう年に株式でも損失が出た場合、法人であれば事業の赤字と株式の損失をまとめて合算できます。
たとえば、事業で300万円の赤字が出て、同じ年に株式でも200万円の損失が出たとします。法人なら合計500万円の損失として計上できるのです。そして欠損金は10年間繰り越せますから、翌年以降に利益が出たときに過去の損失をぶつけて課税所得を圧縮できます。
個人の場合、株式の損失は3年繰越できますが、あくまで株式の利益にしかぶつけられません。事業所得との合算は基本的にできません。この「合算できるかどうか」が、法人と個人の大きな分かれ目です。
節税スキームとの組み合わせで差が広がる
法人投資が特に有利になるのは、他の節税対策と組み合わせたときです。
たとえば、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)や小規模企業共済を活用して課税所得を下げている会社では、株式の売却益が出ても、節税スキームで利益を圧縮できます。役員報酬を適切に設定して法人所得を800万円以下に抑えていれば、実効税率約22%という水準を維持したまま投資利益も取り込めます。
このような「設計された法人」では、個人口座で運用するより、法人で運用した方が手元に残るお金が多くなるケースは珍しくありません。
800万円を超えると話が一変する
ここで大事な注意点があります。法人の所得が800万円を超えると、実効税率は一気に約34%まで跳ね上がります。個人の20.315%より14ポイントも高い水準です。
このレンジでは、株式投資の利益を法人に取り込むことで、かえって税負担が増えてしまいます。「法人所得が高い年は、むしろ個人口座で運用した方がいい」というパターンも十分ありえるのです。
年間の所得水準、役員報酬の設定、節税スキームの使い残し枠——これらを総合的に判断しないと、正しい答えは出ません。
「今年はどちらで運用すべきか」は毎年見直す
株の運用口座を「個人か法人か」で一度決めたら終わり、ではありません。
法人の業績が好調で課税所得が膨らんでいる年は、節税スキームを最大活用しつつ法人の株式損失を使い、逆に所得が800万円を大きく超えそうな年は新規の株式投資を個人口座で——という使い分けも有効です。特に年度の後半に株を売却して利益確定しようとするタイミングでは、その年の法人の着地利益を確認してから動くのが賢明です。
同じ投資成果でも、口座の選び方ひとつで手元に残るお金が数十万円変わることがあります。まだ法人口座での株式投資を検討したことがなければ、今期の決算前に顧問税理士と一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。