「三原さん、株って個人で買ったほうが税金安くないですか?」

先日、顧問先の製造業の社長からこんな質問を受けました。年商10億、手元に1,000万円ほど余剰資金があって、それを株式投資に回したいというのです。「個人口座で買えば20%の税率で済むんでしょう?」と続きました。

一見正しそうなこの考え方、実は落とし穴があります。

個人口座で株を買う「見えない損」

個人の株式売却益は申告分離課税で、税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。給与や事業所得と切り離して計算されるので、「税率が低くてお得」と感じている社長は多い。

でも、問題はここからです。

個人口座では、株で損が出ても「事業の損益」と合算できません。たとえばある年、本業の調子が悪くて赤字が出た。同じ年に個人口座の株でも100万円の損失を出した。でもこの100万円は事業所得とは別勘定なので、損失を相殺することが一切できないのです。

3年間の繰越控除はできますが、あくまで株の損益同士の通算に限られます。事業と株のリスクを同時に抱えているのに、税務上は「他人扱い」される。これが個人保有の見えない損です。

法人で株を持つと「損益が合算できる」

一方、法人名義で株を保有すると、売却益・損失は事業所得と同じ土俵で計算されます。

たとえば本業で1,000万円の利益が出た年に、株の売却で200万円の損失が出たとしましょう。個人なら別々に計算されますが、法人なら合算して課税所得が800万円になります。

これが損益通算のメリットです。本業の利益が年によってばらつきがある会社ほど、このメリットは大きくなります。景気の波に敏感な業種の社長にとっては、かなり強力な武器になり得ます。

ただし「含み益課税」という落とし穴がある

法人で株を持つ場合、保有目的によって税務上の扱いが変わります。ここは多くの社長が見落とすポイントです。

売買目的で保有している株は、期末時点の含み益にも課税されます。まだ売っていなくても、帳簿上の評価益に税金がかかる仕組みです。

これを避けるには「投資目的」や「関係会社株式」として保有する必要があります。その場合は売却するまで課税されません。ただし、税務調査で「これは売買目的ではないか」と問われるリスクもあるため、保有目的を書面で明確にしておくことが重要です。

法人の実効税率は思ったより高い

もうひとつ忘れてはいけないのが税率の問題です。

法人の実効税率は、課税所得800万円以下で約22%、800万円を超えると約34%になります。個人の20.315%と比べると、利益が大きい法人では税率が逆転することも珍しくありません。

整理するとこうなります。

  • 本業の所得が安定して高い → 個人の20%が有利なケースも
  • 本業の利益が年によってばらつく → 法人の損益通算が効く年がある
  • 相続・事業承継を見据えている → 法人保有で会社資産として計画的に動かせる

「法人で株を買えば節税になる」とは一概には言えない。状況次第で答えが真逆になります。

余剰資金の使い道を考える前に、一度試算を

手元に余剰資金ができた社長に最初にお願いしていることがあります。それは「今期の事業所得の見込みを出す」ことです。

株をどちらの名義で持つかは、その年の事業所得の大きさと安定度によって正解が変わります。一度シミュレーションするだけで、かなり明確な答えが出ます。

「なんとなく個人口座で買っていた」という社長は、今期の決算前に一度、保有方法を見直してみてください。特に本業で波のある年は、法人名義への切り替えが思わぬ節税につながることがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。