先日、ある食品メーカーの社長からこんな連絡が届きました。
「去年は売上が落ちたのに、なんか税金がすごく高かった気がして。役員報酬って、年の途中で変えられるんですか?」
変えられます。ただし、年に1回だけ。そしてそのタイミングを、今まさに逃しかけているかもしれません。
役員報酬は「変えていいタイミング」が決まっている
税務上、役員報酬は「定期同額給与」として認められる必要があります。つまり、毎月同じ金額を支払い続けること。これを守らないと、差額分が損金に算入できず、法人税が余計にかかってしまいます。
変更が認められるのは、事業年度の開始から3ヶ月以内だけ。3月決算の会社であれば、変更できるのは4月・5月・6月末までです。7月以降に「やっぱり変えたい」と思っても、基本的には手遅れ。今年度いっぱい、同じ金額を払い続けることになります。
毎年この時期に見直しをしている会社は少なくないのですが、「とりあえず去年と同じで」と流してしまっている社長が案外多いんです。
高すぎると個人が損、低すぎると会社が損
役員報酬の設計で押さえておきたいのは、この2つのリスクです。
報酬が高すぎるケース。 個人の所得税率は累進課税で、最大45%。そこに住民税10%が加わると、合計55%の税率になります。つまり、一定以上の報酬水準になると、もらった分の半分以上が税金として消えていく計算です。社長個人の手元に残るお金が、想像よりずっと少ない——という現象が起きます。
報酬が低すぎるケース。 報酬が低ければ個人の税負担は下がりますが、会社に利益が残ります。その利益には法人税がかかります。中小企業の法人税率は15〜23%前後ですが、会社に利益を積み上げすぎると、内部留保への課税リスクも出てきます。「報酬を下げれば節税」とシンプルには言えないわけです。
この2つのバランスを、毎年の業績と照らし合わせて設計するのが、役員報酬の見直しで本来やるべきことです。
業績が変わったのに据え置いている社長ほど損をしている
実は最も危ないのが、「去年うまくいったから報酬はそのまま」というパターンです。
たとえば、前期に売上が大きく伸びて報酬を上げた社長が、今期は一転して業績が落ちた場合。報酬を下げるタイミングを逃していれば、会社の利益が減っているのに高い役員報酬を払い続け、社長個人の税率だけが高いまま残るという最悪の状態になります。
逆もしかりです。業績が良くなったのに報酬を据え置いていると、会社に利益が積み上がり、法人税の負担が増えます。毎年1回の見直しを「面倒だから」とスキップしている会社は、数十万円単位で税金を払いすぎているケースが珍しくありません。
「最適な役員報酬」はどう考えればいいか
厳密な答えは会社の状況によりますが、考え方の枠組みをお伝えします。
まず、個人の所得税率が法人税率を超えないラインを目安にします。法人税率がおおよそ20%前後なら、個人所得税率も同水準に収まる報酬水準が一つの目安です。
次に、社会保険料の負担も必ず試算に含めること。報酬が上がると標準報酬月額が上がり、保険料も増加します。この計算を抜きにすると、「手取りが思ったより増えなかった」という話になりがちです。
そして、役員報酬だけを単体で最適化しようとするのは危険です。退職金の積み立て、不動産投資との組み合わせ、家族への給与支払いなど、全体設計の中に位置づけて考える必要があります。
今月が動けるラストチャンス
3月決算の会社にとって、4月は正真正銘の「見直しシーズン」です。5月末の決算申告が終わってから動こうとすると、変更の余地はほとんど残っていません。
「先生、去年と同じでいいですか?」ではなく、「今期の業績見通しをもとに、最適な報酬額を一緒に考えてください」という姿勢で税理士と向き合うと、節税の効果が全然変わってきます。
まだ今期の役員報酬を据え置いているなら、今月中に必ず税理士へ相談することをおすすめします。1年に1度のこの機会を、流してしまわないでください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。