先日、知り合いの経営者からこんな話を聞きました。顧問税理士に「役員報酬が高すぎる」と指摘され、翌年から月10万円下げたところ、確かに所得税は減ったけれど、法人税がどっと増えてしまった——という話です。

結果的に手取りベースで見ると、以前とほとんど変わらなかった。それどころか、試算のための相談費用まで加えると若干マイナスだったかもしれないと、苦笑いしていました。

役員報酬の設定は、中小企業の社長が最も損をしやすいポイントのひとつです。「高すぎる」「低すぎる」どちらも罰があり、その差は年間50〜200万円にのぼることもあります。

報酬が「高すぎる」と何が起きるか

役員報酬を増やすと、まず所得税と住民税の負担が増えます。さらに社会保険料(健康保険・厚生年金)も報酬に比例して上がるため、一定額を超えると「増やした報酬より税社保の増加分が大きい」状態になります。

社会保険料は報酬の約30%(会社負担分も含めると)を占めます。月100万円の報酬なら、毎月30万円前後が社保だけで飛んでいく計算です。これは法人側のコストでもあるので、二重のダメージになります。

報酬が「低すぎる」と何が起きるか

逆に役員報酬を抑えすぎると、法人に利益が残ります。残った利益には法人税がかかりますが、中小企業の場合、所得800万円を超えると実効税率は約34%に跳ね上がります。

「会社に貯めておけばいい」と思いがちですが、会社に残った利益は将来の相続税評価額を押し上げる可能性もあります。単純に「法人に置いておく=節税」ではないのです。

損益分岐点の考え方

では、役員報酬はいくらに設定すればいいのか。基本的な考え方は、自分の実効税率と法人の実効税率を比べることです。

  • 個人の所得税+住民税が約25〜30%なら、法人税率34%より低い → 報酬を増やして個人で受け取るほうが有利
  • 個人の実効税率が住民税込みで34%を超えてくるなら → 報酬を増やしすぎると個人の税負担が法人税を上回る

つまり「個人の実効税率=法人の実効税率」となる報酬額が、理論上の最適解です。課税所得ベースでおおよそ800〜900万円前後が分岐点になるケースが多いですが、社会保険料の扱いによって変わってきます。

「最適額」はひとりひとり違う

ここで注意が必要なのは、この損益分岐点はあくまで目安だということです。

たとえば、将来の退職金をどう設計するかによって、今の役員報酬をあえて低く抑えたほうが得なケースがあります。退職金は「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算されることが多いので、最後の数年間だけ報酬を上げておくという戦略もあります。

また、配偶者や家族を役員にして報酬を分散するスキームもあります。ただしこれは税務調査の対象になりやすい手法でもあるため、実態を伴わせることが大前提です。

扶養家族の人数や配偶者の収入によっても、社会保険の扶養に入れるかどうかが変わり、最適額はさらに個別の事情に左右されます。

今すぐできる簡単チェック

自分の役員報酬が最適かどうか確認したいなら、まず以下の3点を整理してみてください。

  1. 今年の役員報酬(年額)と、個人の所得税・住民税の合計額
  2. 法人の今期の税引き前利益(見込み)
  3. 社会保険料の月額(本人負担分)

この3つの数字があれば、税理士に「役員報酬の最適化シミュレーションをお願いしたい」と具体的に相談できます。定期同額給与の縛り(原則として期中変更不可)があるため、変更するなら決算後の事業年度開始から3ヶ月以内に動くのが鉄則です。

まだ一度も役員報酬の最適化を検討したことがないなら、今期の決算が終わったタイミングで、ぜひ顧問税理士に確認してみてください。「このまま何もしない」が、実は一番の損かもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。