先日、ある社長から「去年の決断を本当に後悔している」という相談を受けました。

年商5億円の製造業を営む、50代の社長です。前期が好決算で、決算直前に「どうせ法人税で持っていかれるなら、自分の報酬に回そう」と判断したそうです。

その発想自体は、節税の文脈でよくある考え方です。問題は、その「やり方」と「タイミング」にありました。

「どうせ取られるなら」が招いた最初のミス

社長は役員報酬を月100万円から一気に250万円へ引き上げました。年換算で3000万円です。

法人の利益は圧縮され、法人税の負担は確かに下がりました。「うまくやった」と感じていたのも束の間、翌年は受注が落ち込み、業績が大きく悪化します。

「報酬を下げないと会社のキャッシュが持たない」——そう判断した社長は、年度の途中で月180万円に引き下げました。ここが最初の地雷でした。

「期中変更」が損金不算入になる仕組み

役員報酬には、税務上の厳格なルールがあります。

原則として、役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内に決定し、その後は年間を通じて同額でなければ損金(経費)として認められません。これを「定期同額給与」といいます。

途中で減額した場合、変更前後の差額分が「損金不算入」となり、その分に法人税が課されます。要するに、「経費として認めてあげない」という扱いになるわけです。

この社長のケースでは、月70万円の減額が数ヶ月分にわたって損金不算入となり、最終的に追徴課税が約200万円に上りました。税務署の調査が入ったときには、もう手の施しようがなかったそうです。

見落とされがちな「社会保険料」という第二の爆弾

話はここで終わりません。報酬を3000万円に上げた時点で、もう一つの爆弾が仕掛けられていました。

厚生年金保険料には標準報酬月額に上限(65万円)があるため、報酬が高くなっても年金保険料はある程度で頭打ちになります。ところが健康保険料は報酬額に連動し続けます

3000万円規模の役員報酬になると、健康保険料だけで年間数百万円規模になるケースもあります。

「法人税を節税したつもりが、社会保険料でごっそり持っていかれた」——これが多くの社長が気づかずに踏む、第二の落とし穴です。

役員報酬は「いくら取るか」より「いつ、どう決めるか」

よく「役員報酬は高くした方がいいのか、低くした方がいいのか」と聞かれます。

正直なところ、答えはケースバイケースです。法人税率と個人の所得税・住民税の実効税率、社会保険料の負担額、翌期以降の業績見通し——これらを総合的にシミュレーションして初めて、最適な金額が見えてきます。

ただし、判断のタイミングだけは絶対に守る必要があります

  • 期首から3ヶ月以内に決定する
  • 一度決めたら、原則として年間を通じて変更しない
  • やむを得ず変更する場合は、必ず税理士に相談してから動く

この3点は、役員報酬を設定するすべての社長に共通する鉄則です。

好調期ほど「保守的に設定する」発想が守ってくれる

最後にもう一点だけ。役員報酬は「業績がいいときに一気に上げる」より、「翌年が不調でも払い続けられる水準に設定する」 という考え方の方が、長い目で見ると安全です。

好調期の数字に合わせて高く設定し、不調期に慌てて下げようとすると、今回のような落とし穴にはまります。設定は保守的に抑えておき、余剰利益については「事前確定届出給与(役員賞与)」や配当などの手段を組み合わせる方が、リスクははるかに低くなります。

役員報酬の見直しは毎年の重要な経営判断です。まだ顧問税理士と具体的なシミュレーションをしていないなら、期首から3ヶ月というタイムリミットを意識して、早めに動くことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。