決算の2週間前に、税理士から電話がかかってきた——そんな経験、ありますか?

ある製造業の社長(仮に田中さんとします)は、まさにそのタイミングで青ざめることになりました。試算表を見ると、今期の利益が当初の予測より500万円も多く出ているんです。嬉しい誤算のようにも聞こえますが、社長の顔色は優れません。そう、利益が増えるということは、そのぶんだけ税金も増えるということだからです。

「何かできることはないか」と税理士に相談したところ、出てきたのが意外な一手でした。

「在庫の計算ルールを変える」という発想

税理士が提案したのは、在庫の評価方法を変更すること。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは「仕入れた商品の原価をどう計算するか」のルールのことです。

同じ商品でも、いつ仕入れたものから売れたとみなすかによって、原価の金額が変わってきます。そして原価が変われば、売上から引く金額が変わる。つまり、利益の大きさが変わるんです。

田中社長が使っていたのは「先入先出法」という方式。これは文字通り、先に仕入れたものから先に売れたとみなして原価を計算します。仕入れ値が安かった時期のものから売れたことになるため、原価が低く計算されやすく、その結果として利益が高く出やすい傾向があります。

総平均法に変えると何が変わるのか

対して、税理士が提案したのは「総平均法」への変更です。これは一定期間の仕入れ金額を全部合算し、数量で割った平均単価を原価として使う方法です。

田中社長の会社では、材料費が年々上昇していました。最近の仕入れ値は以前より高い。そんな状況では、総平均法を使うと平均原価が引き上げられ、利益が圧縮されるという効果が生まれます。

実際に計算してみると、原価がおよそ500万円分かさ上げされる見込みに。利益が500万円圧縮されれば、法人税率をおよそ40%として計算すると、税負担が約200万円減るという試算が出ました。

届出書を税務署に提出することで、この変更は合法的に認められます。「ルールの抜け穴」ではなく、税法が認めた正規の手続きです。

ただし、翌期への影響は必ず確認する

ここで一点、大事なことをお伝えします。在庫評価方法の変更は、今期だけで完結する話ではないということです。

今期に原価を高く計上すれば、その在庫は翌期に繰り越されます。翌期に売れたとき、原価はすでに高い状態で確定しているわけですから、翌期の利益にも影響が出る。今期の節税が、翌期の利益をどう変えるかまで見通しておく必要があります。

また、評価方法の変更は「今期の決算を楽にしたいから」という理由だけで毎年コロコロ変えられるものでもありません。一度変更したら、その方法を継続して使うことが前提です。

だからこそ、自社の在庫構成・仕入れ単価の推移・今後の事業計画を踏まえて、税理士と一緒に判断することが不可欠です。

在庫を「眠れる節税資源」と思っていない社長へ

製造業や小売業を営む社長にとって、在庫は日常的なものすぎて、節税の文脈で語られることがあまりありません。でも実際には、評価方法という「計算ルール」を変えるだけで、損益に大きく影響することがある。

田中社長の場合は決算直前という綱渡りでしたが、理想を言えば期中から税理士と定期的に試算表を確認し、早めに手を打つのがベストです。決算2週間前では選べる手段が限られますが、3〜4ヶ月前なら選択肢はぐっと広がります。

在庫評価方法の変更は、一度きちんと整理すればそれほど複雑な手続きではありません。もし「うちの会社の評価方法、そもそも何を使ってるか知らない」という状態なら、まず顧問税理士に確認してみてください。意外と見落とされているポイントが、そこにあるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。