先日、東京で製造業を営む田中社長(仮名)からこんな連絡が届きました。
「決算まで3日しかないのに、利益が800万円も残ってしまって……。どうにかなりませんか?」
決算期末に近づくにつれて、こういった相談は本当に増えます。利益が出ることは喜ばしいことなのに、法人税の納付額を見た瞬間に顔が青くなってしまう——そんな社長を何人も見てきました。田中社長の場合、試算では法人税だけで約280万円。「何か手はないか」と焦るのは当然です。
そこで提案したのが、決算賞与という方法です。結論からいうと、田中社長はこれを使って総額300万円を当期の経費に落とし、約100万円の節税に成功しました。
決算賞与が強い理由
通常、経費として認められるには「実際にお金が出ていること」が基本です。ところが決算賞与には、未払い計上でも経費にできるという特別ルールが税法上に存在します。
つまり、決算日の時点でまだ従業員の口座にお金が振り込まれていなくても、一定の条件を満たしていれば「今期の費用」として処理できるのです。これが決算直前でも間に合う理由です。
ただし、「条件を満たしていれば」という部分が非常に重要です。ここを甘く見ると、税務調査で経費を丸ごと否認されるリスクがあります。
認められるための3つの条件
税法上、未払いの決算賞与が当期の損金(経費)として認められるには、次の3点をすべて満たす必要があります。
まず①決算日までに、対象となる全従業員へ賞与の支給額を書面で通知すること。口頭ではなく、書面での通知が必須です。「なんとなく頑張ったね」では通りません。誰にいくら払うかを明確にした通知書を、決算日当日までに渡しておく必要があります。
次に②その通知から1ヶ月以内に実際に支払いを行うこと。未払い計上は認められますが、無期限ではありません。翌期に入ってからも1ヶ月以内に振り込みを済ませることが条件です。
そして③通知書をきちんと保存しておくこと。これを忘れる社長が意外と多い。書面を作っても捨ててしまっては証拠になりません。税務調査が来たときに「通知しました」と言える根拠を、会社側で保管しておく必要があります。
田中社長の場合、従業員10名全員に個別の賞与通知書を発行し、1人あたり平均30万円、総額300万円を決算日前日に通知しました。翌月には全員へ振り込みを完了し、通知書は税理士事務所とともにデータ・紙の両方で保存。この手順を踏んだことで、300万円がしっかり当期の経費として認められました。
「従業員が喜んで、会社も助かる」という一石二鳥
節税の話をすると、どこかお金が消えていくようなイメージを持つ方もいます。でも決算賞与は違います。
従業員の手元には実際にお金が渡ります。会社は法人税を減らせる。税務的にも適法。三方よしとまではいいませんが、「使ったお金が社員の笑顔になって返ってくる節税」というのは、他の節税手法にはない魅力です。
田中社長も「どうせ税金で持っていかれるくらいなら、うちの社員に渡したい」とおっしゃっていました。こういう気持ちで取り組める節税は、経営者としても気持ちがいいものです。
やってはいけない2つの落とし穴
決算賞与は有効な手法ですが、失敗するパターンも決まっています。
1つ目は通知書を作らずに口頭だけで済ませること。「みんなに伝えた」では証拠になりません。税務調査では書面の存在が問われます。
2つ目は支払いが1ヶ月を超えてしまうこと。「バタバタしていて振り込みが遅れた」では、せっかく計上した経費が否認されてしまいます。通知と支払いのスケジュールを、決算前にしっかり組んでおくことが大切です。
このあたりの段取りは、一人で抱え込まず顧問税理士と一緒に動くのがベストです。通知書のひな形作成から、支払いスケジュールの確認まで、事前に相談しておけばほぼミスは防げます。
今期の決算、まだ間に合うかもしれません
決算賞与が使えるのは、あくまで決算日までに通知が完了していることが前提です。決算が終わってからでは手遅れになります。
「今期、思ったより利益が残りそうだ」と感じているなら、決算の1〜2週間前には税理士へ相談を。数字を見ながら、いくら・何名に通知するかをシミュレーションしてもらうだけで、かなり具体的な節税額が見えてきます。
毎年3月や9月に「もう少し早く動いていれば……」と後悔する社長を見るたびに、もったいないなと感じます。決算賞与は、正しい手順を踏めばシンプルで強力な決算対策です。今期の決算前に、ぜひ一度検討してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。