先日、創業20年になる製造業の社長からこんな相談を受けました。「うちは特に承継対策なんてしてないけど、大丈夫かな」。

決算書を拝見すると、正直かなり危ういなと感じました。理由は単純で、何もしていない会社ほど、自社株の評価額が静かに膨らみ続けているからです。

自社株評価は「放置」で上がっていく

非上場企業の自社株評価は、利益や純資産の積み上がりに連動して年々上昇していきます。業績が堅調な会社ほど、実はこの上昇スピードが速いのです。

黒字を出し続け、内部留保を厚くしてきた優良企業ほど、いざ相続が発生したときの評価額は跳ね上がります。10年前に株価評価をしたきり放置していた会社が、実際に相続税を試算してみたら評価額が数倍になっていた、というケースは珍しくありません。

相続税は評価額に対してかかりますから、評価額が2倍になれば、単純計算で税額も大きく膨らみます。しかも相続税は現金一括納付が原則です。自社株という換金しにくい資産を相続した後継者が、納税資金の確保に頭を抱えるという構図がここで生まれます。

対策の基本は「評価額を上げすぎない」こと

では何をすればよいのか。基本は株価そのものを引き下げる工夫と、上がる前に少しずつ移転していく工夫の組み合わせです。

代表的な方法は次の3つです。

  • 役員退職金の支給など、利益・純資産を圧縮するタイミングを作って株価を引き下げる
  • 評価額が低いうちに、暦年贈与や相続時精算課税を使って後継者へ生前贈与を進める
  • 持株会社(ホールディングス)を設立し、株式の評価構造そのものを組み替える

どれも一朝一夕にはできません。株価引き下げには決算のタイミングが絡みますし、生前贈与は毎年コツコツ積み上げる必要があります。持株会社化に至っては、設計から実行まで年単位の準備が必要です。「相続が近づいてから慌てて動く」では、そもそも間に合わない類の対策なのです。

事業承継税制の「ゼロ」は誤解されやすい

ここでよく出てくるのが、「事業承継税制を使えば税金がゼロになるんでしょう?」という質問です。

結論から言うと、これは正確ではありません。事業承継税制は税額が免除される制度ではなく、納税が猶予される制度です。後継者が会社を継続して経営し続ける限り納税を先送りできる、という仕組みであって、条件を満たせなくなれば猶予は打ち切られ、利子税を含めて一括納付を求められます。

さらに見落とされがちなのが期限です。納税猶予割合を100%まで引き上げられる特例措置は、2027年12月末までの時限措置です。この期限を過ぎると、通常の(猶予割合が下がる)制度に戻ってしまいます。「いずれ使えばいい」と先送りしているうちに、有利な枠そのものがなくなってしまう可能性があるということです。

「様子見」が一番コストの高い選択肢

事業承継の怖いところは、対策をしないという選択自体が、実は最もコストの高い選択になりがちな点です。株価は待ってくれませんし、制度の期限も待ってくれません。

特に業績好調な会社の社長ほど、「今はまだ先の話」と後回しにしがちです。ですが評価額が上がるのは、まさにその「業績好調」な期間なのです。

まずは現時点の自社株評価額を試算してみることから始めてみてください。数字を見れば、対策の必要性が肌感覚として腑に落ちるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。