先日、製造業を営むある社長からこんな相談を受けました。「今期は過去最高益なんですが、これって手放しで喜んでいいんでしょうか」と。

決算書を見せてもらうと、たしかに業績は絶好調でした。ですが同時に、後継者である息子さんの表情は少し曇っていました。理由を聞くと「株を継ぐときの税金が、想像以上に高くなりそうだと言われた」とのことでした。

非上場企業の株価は、上場株のように市場で値段がつくわけではありません。国税庁が定めた方式に沿って計算します。代表的なのが「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の二つです。

類似業種比準方式は、自社と似た業種の上場企業の株価をベースに、配当・利益・純資産の3指標を比較して算出する方法です。中でも利益の影響が大きく、黒字額が増えるほど株価は跳ね上がる仕組みになっています。

一方の純資産価額方式は、会社の総資産から負債を差し引いた金額をもとに評価する方法です。内部留保を積み上げてきた会社ほど、この評価額も膨らんでいきます。

つまり、経営努力によって利益を出し、資産を積み上げてきた会社ほど、いざ後継者に株を渡す段階での評価額が高くなり、相続税や贈与税の負担も重くなるという、なんとも皮肉な構造があるのです。

実際、年商数億円規模の会社でも、自社株の評価額が数億円に達しているケースは珍しくありません。後継者がこれをそのまま相続すると、納税資金を用意できず、会社の預金を取り崩したり、最悪の場合は自宅を売却して工面するといった事態にもなりかねません。

ここで検討したいのが「事業承継税制」の納税猶予です。一定の要件を満たせば、自社株にかかる相続税・贈与税の納税が猶予され、将来的には免除される可能性もある制度です。適用には都道府県知事の認定や5年間の事業継続要件などクリアすべき条件があり、準備には数か月から1年程度を見ておく必要があります。

もう一つ有効なのが、計画的な株価対策です。役員退職金の支給で利益を圧縮する、持株会社を設立して株式を移転する、生前贈与を複数年に分けて実行するなど、打てる手は複数あります。ただし、どれも効果が出るまでに数年単位の時間がかかる対策ばかりです。決算が黒字になってから慌てて動いても、間に合わないことが多いのが実情です。

黒字であること自体は、経営者として誇るべきことです。ただ、その黒字が将来の承継コストに直結するという事実は、多くの経営者が見落としがちなポイントでもあります。利益を出せば出すほど、後継者に背負わせる税負担も大きくなっていく。この感覚は、日々の経営の中ではなかなか意識しづらいものです。

もし後継者への引き継ぎを数年以内に考えているなら、まずは自社株の評価額が現時点でいくらになっているのかを、一度専門家に試算してもらうことをおすすめします。数字を正確に知ることが、対策を打つための最初の一歩になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。