先日、創業から25年になる建設会社の社長とお話しする機会がありました。「そろそろ息子に譲ろうかと思ってるんですよ」と軽い調子でおっしゃるので、いつ頃を考えているか聞いてみると、「来年か再来年くらいには」というお答えでした。

正直、少し焦りました。事業承継は、思い立ってから1〜2年で片付くようなものではないからです。

社長がやりがちな承継準備、3つの先送り

顧問先を見ていると、承継準備でつまずくパターンには共通点があります。

3位は「後継者育成はまだ早い」という判断です。後継者候補が30代前半だったりすると、まだ経営を任せるには早いと考えてしまいがちです。ですが経営者としての判断力は、現場経験と権限移譲を重ねながらでしか育ちません。育成には最低でも数年単位の時間が必要になります。

2位は、自社株の評価額や税負担の把握を後回しにしてしまうことです。「うちは非上場だから、そんなに評価額は高くないだろう」という思い込みで放置されているケースを何度も見てきました。実際に試算してみると、想定の何倍にもなっていて社長が絶句する、ということは珍しくありません。

そして1位、最も多いのが「準備にかかる期間そのものを甘く見ている」ことです。育成・株式・税務という3つのステップをそれぞれ独立した短期タスクだと捉えてしまい、全体でどれくらいの時間軸になるのかを見積もっていない社長が非常に多いのです。

なぜ5年前後かかるのか

事業承継の準備は、大きく分けて3つのステップで進みます。

まず後継者育成です。現場理解、社内外との信頼関係構築、経営判断の経験値。これらを積み上げるには、権限を段階的に移していく期間を含めて3〜5年ほどかかるのが一般的です。

次に自社株の整理です。評価額を把握したうえで、生前贈与や種類株式の活用、場合によっては持株会社化などの株価対策を検討します。対策によっては効果が出るまでに複数年かかるものもあり、直前に慌てて着手しても選べる選択肢が限られてしまいます。

最後に税務面の設計です。相続税・贈与税の負担をどう抑えるか、特例事業承継税制を使うかどうかの判断、納税資金の準備。これも制度の要件や手続き上、一定のリードタイムが必要になります。

この3つが並行して進むわけではなく、多くの場合は順番に、あるいは一部重なりながら進んでいきます。だからこそ、トータルで5年前後という時間軸が現実的な目安になるのです。

逆算で今の立ち位置を確認する

仮に65歳で引退したいと考えているなら、60歳の時点で承継準備を本格的に始めている必要がある、という計算になります。

ここで大事なのは、「あと何年で引退したいか」から逆算して、今どのステップにいるべきかを把握することです。育成はまだこれから、株式評価は未着手、税務も何も検討していない、という状態であれば、それは決して早すぎる段階ではありません。

私が見てきた中で後悔されるケースの多くは、「もっと早く動いておけばよかった」という声です。逆に「早く動きすぎて後悔した」という社長には、まだお会いしたことがありません。

具体的な進め方は会社の規模や業種、家族構成によって大きく変わってきますので、顧問税理士など専門家に相談しながら、自社の現在地を確認してみるのがおすすめです。

まだ承継について何も動いていないという方は、まずは自社株の評価額を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。