先日、ある社長からこんな相談を受けました。「築22年の木造アパートを買ったら、初年度からすごい節税額になったんです」と、少し興奮気味に話してくれたのです。

数字を見せてもらうと、確かに建物価格の大部分をわずか4年で経費にできる計算になっていました。不動産所得は大きな赤字、その赤字を給与所得と損益通算した結果、所得税と住民税が数百万円単位で下がる見込みだったのです。

悪い話ではありません。ただ、私はその社長にひとつだけ聞きました。「この物件、いつ、いくらで売る予定ですか」と。返ってきたのは沈黙でした。

なぜ築22年で耐用年数4年なのか

木造建物の法定耐用年数は22年です。ところが税務上は、法定耐用年数をまるまる経過した中古物件を取得した場合、簡便法という計算方法を使えます。

計算式は「法定耐用年数×20%」。22年×20%は4.4年、端数を切り捨てて4年です。これが「築古の木造物件は耐用年数が短い」と言われる理由になります。

仮に建物価格が2,000万円だとすると、定額法で4年償却すれば年間500万円が減価償却費として計上できます。土地は償却できないので建物価格だけの計算にはなりますが、それでもインパクトは相当なものです。

給与所得が高い社長ほど、この赤字との損益通算効果は大きくなります。所得税・住民税の合計税率が40%を超えている方であれば、初年度から数百万円の税負担軽減が見えてくることも珍しくありません。

「節税できた」で止まると危ない理由

ここまでは事実です。ただ、多くの方がここで思考を止めてしまいます。減価償却を進めるということは、建物の帳簿上の価値、つまり簿価をどんどん減らしていくということでもあります。

4年で建物価格の大半を経費化してしまえば、5年目以降の簿価はほぼゼロに近づきます。そしてこの物件をいずれ売却するとき、税金は「売却価格から簿価を引いた譲渡益」に対してかかります。

簿価がゼロに近いということは、売却価格のほとんどが譲渡益として課税対象になるということです。つまり、減価償却で先送りにしていた税金が、売却のタイミングでまとめて請求されるようなイメージに近いのです。

もちろん、保有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として税率は約20%に下がります。給与所得と損益通算した際の税率が30〜45%だったことを考えれば、税率差だけを見れば得をしている場合もあります。

問題は、この設計を最初からしていたかどうかです。何年保有して、いつ売るのか。売却時の税率はどうなるのか。それを考えずに「減価償却が大きいから買う」という判断だけで進めてしまうと、出口で想定外の納税資金が必要になり、慌てることになります。

出口まで含めて設計する

私がこの手の相談でまず確認するのは、次の3点です。

  • 何年保有する前提で購入したのか(5年の壁を意識しているか)
  • 売却時にまとまった納税資金を用意できる見込みがあるか
  • 損益通算で浮いた税金を、次の投資や納税準備にどう回すか

減価償却の速さは、あくまで「税金を払うタイミングを動かす力」であって、「税金そのものを消す力」ではありません。この前提を持っているかどうかで、同じ物件でも結果は大きく変わってきます。

もしいま築古物件での節税を検討しているなら、購入前に売却シナリオまで一枚の絵にしておくことをおすすめします。買う前に出口を決めておく、これだけで数年後の資金繰りがまったく違うものになりますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。