先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「数年前にハワイの中古コンドミニアムを買ったんです。減価償却で大きく節税できると聞いて。でも最近、思ったほど税金が減っていない気がして……」

話を聞いてみると、案の定でした。海外の木造中古物件は、日本の税法上の耐用年数がとても短く計算できるため、数年で建物の価値をほぼ全額償却できてしまいます。

減価償却費が多ければ不動産所得は赤字になり、その赤字を給与所得や事業所得とぶつけて(損益通算して)税金を圧縮する。数年前まで、これは富裕層の間でかなり知られた節税スキームでした。

ところが今、この社長のように「思ったほど効いていない」というケースが急増しています。理由ははっきりしていて、2021年度の税制改正で、個人が海外中古不動産から生じさせた不動産所得の赤字については、他の所得と損益通算できないというルールが導入されたからです。

何が変わったのか

改正前は「建物の取得価額のうち土地の割合を除いた部分」を短い耐用年数で一気に償却し、その赤字を給与所得などと相殺することで、所得税・住民税を大きく圧縮できました。年収3000万円クラスの経営者であれば、数百万円単位の還付を受けていた方も珍しくありません。

改正後は、国外中古建物から生じた損失のうち、簡便法などで計算した耐用年数を使った減価償却費に相当する部分は、なかったものとみなされます。つまり赤字自体は帳簿上残っても、税務上は他の所得と相殺できなくなったのです。

結果として何が起きるかというと、節税効果だけがきれいに消え、物件そのものは手元に残ります。

負担だけが残る構造

ここで厄介なのは、節税目的が消えても物件は消えないという点です。

為替変動のリスクは相変わらず抱えたままですし、現地の管理会社への委託費用、固定資産税に相当する現地税、空室時の維持費といったコストは、節税効果とは無関係に発生し続けます。

相談に来られた社長も、「節税」という当初の目的がなくなった今、この物件をどう扱うべきか判断がつかない状態でした。売却するにも為替次第では損失が出ますし、保有を続けても管理の手間だけがかかります。

節税スキームというのは、多くの場合「制度の穴」を突いた設計です。そして制度の穴は、税務当局に見つかった瞬間に塞がれます。塞がれた後に残るのは、節税効果を失った資産と、それを維持するためのコストだけです。

検討する前に確認したいこと

海外不動産に限らず、節税を目的に資産を持つ場合は、次の2点を必ず確認しておくべきです。

節税効果がなくなった場合でも、その資産自体に保有する経済的な合理性があるか。そして、その節税スキームが法改正でいつ塞がれてもおかしくない性質のものかどうか。

特に海外不動産や航空機リースのように、為替・現地の法制度・国際的な税務ルールが絡む節税策は、国内完結型の節税策よりも改正リスクが高い傾向にあります。旨味だけを見て飛びつく前に、剥落した後の姿を想像しておくことが大切です。

すでに海外不動産をお持ちで、この改正の影響を受けているかもしれないと感じたら、次の確定申告を待たずに、一度税理士に保有目的から棚卸ししてもらうのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。