先日、決算前の面談で、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「300万円の車を社用車として買おうと思うんですが、全額経費になりますよね?」
少し間を置いて、私はこう答えました。「使い方次第では、7割くらいは経費にできますよ。ただし、条件があります」
社長は少し驚いた顔をしていました。全額でも、ゼロでもない。この「7割」という数字の根拠を、順を追ってお話しします。
なぜ「全額経費」にはならないのか
結論から言うと、社用車を経費にできる割合は、業務でどれだけ使っているかという実態によって決まります。
車を買った時点で自動的に7割経費になるわけではありません。税務署が見ているのは「その車が本当に事業のために使われているか」という一点です。
休日に家族で乗り回している車を、書類上だけ社用車扱いにしていても、税務調査で実態を問われればあっさり崩れてしまいます。ここを軽く見ている社長は、実は少なくありません。
業務使用を証明する記録を残す
まず必要なのが、いつ・どこへ・何の用件で乗ったかという記録です。
運行記録簿のようなものを作り、訪問先や商談相手、走行距離をこまめに残しておく。これだけで、税務調査が入ったときの説明力がまったく違ってきます。
逆に、記録が一切ない状態で「業務用です」とだけ主張しても、調査官を納得させるのは難しいでしょう。証拠がなければ、按分の割合そのものが認められないリスクもあります。
面倒に思われるかもしれませんが、スマートフォンのメモアプリに一行残す程度でも十分です。習慣にしてしまえば、負担はそれほど大きくありません。
私用分は使用割合で按分する
次に押さえておきたいのが、私用で使った分は経費から除くという考え方です。
仮に年間の走行のうち7割が business、3割がプライベートだとすれば、車両にかかる費用のうち経費にできるのも7割まで、という理屈になります。ガソリン代や保険料、駐車場代なども同じ割合で按分するのが基本です。
冒頭の社長のケースで「7割」と答えたのは、この使用実態を踏まえた目安でした。実際の割合は会社ごとに違い、営業車として毎日乗り回している会社もあれば、月に数回の来客対応だけという会社もあります。
自社の実態を無視して、他社の事例をそのまま当てはめるのは避けたいところです。
減価償却で数年に分けて経費化する
もう一つ大事なのが、300万円という金額は一括で経費にできるわけではないという点です。
車両は固定資産として扱われ、法定耐用年数に応じて数年にわたって減価償却していくことになります。普通乗用車であれば新車で6年、中古車であればもっと短い期間で償却できるケースもあります。
つまり「今期300万円全部が経費になる」のではなく、「毎年、按分後の金額を耐用年数で割った分ずつ経費に計上していく」というのが正しいイメージです。決算対策として車を買う社長は多いのですが、単年度でのインパクトを見誤ると、想定していた節税効果とのズレに戸惑うことになります。
記録なき節税は、節税ではない
業務使用の記録、私用分の按分、減価償却。この3つがそろって初めて、社用車は無理のない形で経費化できます。
どれか一つでも欠けていると、税務調査で指摘を受けたときに、経費として認められていた分まで否認されるリスクが出てきます。特に記録の不備は、後から取り繕うことができません。
まだ社用車の運行記録をつけていないなら、車を買うタイミングに関わらず、今日から記録を始めておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。