先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。

「先月20万円のパソコンを5台買ったんだけど、経費になるのは今期だけで5万円くらいって言われた。残りは何年も先になるって……もっとうまい方法はないの?」

その社長は「少額減価償却特例」を知らなかったのです。これを知っているか知らないかだけで、今期の税負担が数十万円単位で変わることがあります。

備品を買っても、すぐ全額経費にならない理由

10万円以上の備品を購入すると、会計上は「固定資産」として計上し、耐用年数に応じて少しずつ費用化するのが原則です。これを「減価償却」といいます。

たとえばパソコンの法定耐用年数は4年。20万円で買っても、今期の経費は約5万円だけ。残りの15万円は翌期以降に少しずつ乗ってくる仕組みです。

「買ったのに経費にならない」という感覚は間違っていません。実際に現金は出ているのに、税務上の費用計上は先送りされているわけです。

中小企業だけが使える「一括経費化」の特例

正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」。長い名前ですが、内容は非常にシンプルです。

30万円未満の備品なら、購入した年度に全額を一括で経費計上できる。

それだけです。しかも年間合計300万円まで使えます。30万円未満の備品を何点購入しても、合計が300万円を超えなければすべて今期中に費用化できるわけです。

数字で見ると、その差は歴然

冒頭の社長の話に戻りましょう。20万円のパソコンを5台、合計100万円分の購入です。

通常の減価償却(耐用年数4年)で計算すると、今期に経費化できるのは約25万円。残り75万円は翌年以降に持ち越しになります。

一方、少額減価償却特例を適用すれば、100万円の全額が今期の経費です。法人税率が30%なら、通常との差額75万円に対して約22万円が今期に前倒し節税できることになります。

キャッシュアウトは同じ100万円なのに、税負担のタイミングがこれだけ変わる。これが特例を使う最大のメリットです。

適用するために確認すべき3点

この特例は誰でも使えるわけではなく、条件があります。

  • 対象法人:青色申告をしている中小企業者等(原則として資本金1億円以下の法人)
  • 対象資産:1点あたりの取得価額が30万円未満の減価償却資産
  • 年間上限:1事業年度あたり合計300万円まで

なお、30万円の判定は税込・税抜どちらで判断するかが経理方式によって異なります。また、確定申告書に明細書の添付が必要です。「口頭で伝えただけ」では適用できないため、申告の際に顧問税理士に明示しておくことが重要です。

決算が近い社長こそ、今すぐチェックを

この特例は「購入した年度」にしか使えません。期をまたいでしまうと翌期の経費にしかなりません。

決算まで残り数ヶ月というタイミングなら、「今期中に購入しておくべきものはないか」を今すぐ棚卸ししてみてください。老朽化したPC、会議室のディスプレイ、業務用ソフトウェアのライセンス、タブレット端末……30万円未満の備品は、探せば意外なほど出てくるものです。

300万円という上限を意識しながら、必要なものを前倒し購入する。たったこれだけで、数十万円の節税が手元に残ります。

顧問税理士と年に数回しか話せない社長は、決算3ヶ月前の打ち合わせにこの確認を必ず入れておくことをおすすめします。「少額減価償却特例、今期使えますか?」この一言で、毎年の節税機会の取りこぼしが大きく減るはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。