先日、後継者として会社を継ぐ準備をしている30代の方から、こんな相談を受けました。「そろそろ不動産投資を始めたいのですが、個人で買うのと法人で買うのと、どちらがいいんでしょうか」。
実はこの質問、私のところに来る相談の中でもかなり頻度が高いものです。答えを先に言うと、所得水準によって最適解は変わります。ただし多くの中小企業オーナーにとっては、法人での取得に軍配が上がるケースが目立ちます。
税率のカラクリを知っていますか
個人の所得税は累進課税です。課税所得が900万円を超えると税率33%、1800万円を超えれば40%、4000万円超では45%に住民税10%が乗ります。不動産所得が本業の所得に上乗せされると、あっという間に高い税率帯に突入します。
一方、法人税の実効税率はおおむね23〜34%程度で頭打ちになります。所得が大きい経営者ほど、この税率差の恩恵が大きくなるわけです。年収2000万円を超えるあたりから、法人での不動産保有を検討する価値が出てくると考えられます。
減価償却の自由度が違う
法人の場合、減価償却費は「損金経理した範囲内」で任意に計上できます。利益が出過ぎた年は多めに償却し、赤字が見込まれる年は償却を抑える、といった調整が可能です。
個人の不動産所得では、減価償却は強制計上が原則で、この自由度がありません。決算のコントロールという意味でも、法人のほうが選択肢が広いといえます。
家族への所得分散という視点
法人であれば、配偶者やお子さんを役員や従業員として迎え入れ、給与という形で所得を分散させることができます。一人に所得が集中するより、世帯全体の税負担を軽くできる可能性が高まります。
また将来的に事業承継や相続を考えるなら、法人の株式として不動産を承継させたほうが、個人名義の不動産を相続するよりも柔軟な設計がしやすい場合があります。株式は評価額の調整余地や分割のしやすさという点で、実務上のメリットが語られることが多い分野です。
それでも即・法人化とはならない理由
ここまで聞くと「じゃあ法人一択だ」と思われるかもしれませんが、そう単純ではありません。
法人が不動産を取得する際の融資は、個人の住宅ローンのような低金利・長期の商品が使いにくく、金融機関の審査も個人とは別基準で見られます。設立したばかりの法人だと、そもそも融資自体が下りにくいという壁もあります。
さらに出口戦略も重要です。法人所有の不動産を売却する際は法人税がかかり、そこから個人が資金を引き出す段階でさらに所得税・住民税がかかる、いわゆる二重課税的な構造になりがちです。個人であれば譲渡所得として一段階の課税で済みます。
結局、何を基準に決めればいいのか
ざっくりとした目安ですが、次のような視点で考えるとよいでしょう。
- 本業の所得がすでに高税率帯にある → 法人での取得を検討する価値あり
- 将来的に売却して現金化する予定が明確 → 個人所有のほうがシンプルなことも
- 家族への所得分散や事業承継まで見据えている → 法人のほうが設計の自由度が高い
大事なのは、不動産そのものの利回りだけでなく、取得から保有、そして出口までを一体で設計することです。税率だけを見て法人化を決めると、融資や売却段階でつまずくケースを何度も見てきました。
もし今、不動産投資を検討している最中であれば、契約前の段階で顧問税理士に「個人と法人、どちらで取得すべきか」を必ず相談してみてください。取得後に法人化しても、既存物件の移転にはコストがかかります。最初の設計こそが一番のコストダウンになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。