先日、業績好調な製造業の社長からこんな相談を受けました。「事業承継なんて、まだ先の話でいいですよね」と。
正直に言うと、この考え方は半分正解で半分危険です。承継のタイミング自体を急ぐ必要はなくても、「いつの決算をまたぐか」は別問題だからです。今期の数字が良ければ良いほど、自社株の評価額は静かに、しかし確実に上がっていきます。
自社株の評価額は決算数字がそのまま反映される
非上場企業の自社株評価は、路線価のように毎年一律で決まるものではありません。直近の決算における利益や純資産の額を基準に計算されます。
つまり、今期の業績が伸びれば伸びるほど、株価評価はその数字を素直に取り込んで上昇します。社長としては嬉しい話のはずが、贈与や相続のタイミングによっては、その「嬉しさ」がそのまま税負担として跳ね返ってくるのです。
決算をまたぐかまたがないかだけで、評価額が数百万円、時には数千万円単位で変わることも珍しくありません。
決算前に贈与を実行して3000万円軽くなった例
実際にあった話です。ある社長の会社は、その期にかなりの好決算が見込まれていました。例年であれば年明けにゆっくり後継者へ自社株を贈与する予定でしたが、税理士から「このままだと来期の評価額はかなり上がりますよ」と指摘を受けます。
そこで決算日をまたぐ前に、前倒しで贈与を実行することにしました。結果、翌期の好業績を反映する前の評価額で贈与税が計算され、最終的な税負担は約3000万円も軽くなったといいます。
同じ株数、同じ後継者への贈与でも、決算という「境界線」をどちら側で迎えるかだけで、これだけの差が生まれるわけです。
なぜ多くの社長が見落とすのか
理由はシンプルで、事業承継を「まだ先のこと」と捉えている社長が多いからです。実際、後継者が決まっていない、承継の全体設計ができていない、といった段階では無理もありません。
ですが、株価評価のタイミングだけは、承継計画そのものが固まっていなくても先に押さえておける論点です。今期の業績が良い会社ほど、「贈与や承継の実行を今期中にするか、来期にずらすか」で数千万円の差が出る可能性がある、という事実だけは知っておく価値があります。
注意しておきたいこと
一つ注意したいのは、評価額を抑えることだけを目的に贈与を急ぐと、後継者側の資金準備や経営体制の引き継ぎが追いつかないまま実行してしまうリスクがあることです。
税務上有利なタイミングと、経営上ふさわしいタイミングは、必ずしも一致しません。決算日が近いからといって拙速に進めるのではなく、顧問税理士と早めに試算し、「今期中に動くべきか」「来期でも許容範囲か」を数字で確認した上で判断するのが現実的です。
また、贈与には暦年贈与や相続時精算課税など複数の制度があり、どれを選ぶかによっても最終的な税負担は変わってきます。決算のタイミングだけでなく、制度選択も含めてセットで検討する必要があります。
業績が好調な今期こそ、一度顧問税理士に自社株評価の試算を依頼してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。