先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「後継者への株の引き継ぎ、そろそろ考えないとと思いつつ、まだ先でいいかなと」。
気持ちはよくわかります。承継の話は、経営が順調であればあるほど後回しにしがちです。今期の数字、資金繰り、新規案件。目の前の仕事に追われて、10年先の話は「そのうち」で止まってしまう。
でも、この「そのうち」が実はコストになっているとしたら、どうでしょうか。
非課税枠は「毎年」使えるもの
贈与税には、年間110万円までなら税金がかからない基礎控除という仕組みがあります。これは1年ごとにリセットされる枠なので、早く使い始めるほど、非課税で移せる総額が増えていきます。
単純な話です。承継を始めるのが3年早ければ、110万円の枠を3回使えます。合計330万円分、贈与税ゼロで自社株を後継者に渡せる計算になります。逆に3年遅れれば、その330万円分のチャンスをそのまま失うことになります。
実際、私が見てきた例でも差ははっきり出ています。ある社長は「まだ先でいい」と株の引き継ぎを先延ばしにし続けていました。一方で別の社長は、思い立ってすぐに毎年110万円ずつ、コツコツと自社株を後継者に贈与し始めました。
数年後、後者の会社では非課税枠だけで数百万円分の株がすでに移転済み。前者の会社は、承継のタイミングでまとまった評価額の株をどう動かすか、頭を悩ませることになりました。
なぜ「早く始める」が正解になるのか
理由はシンプルで、非課税枠は「使わなかった年」を後から取り戻せないからです。今年使わなかった110万円は、来年221万円になるわけではありません。ただ消えるだけです。
さらに言えば、自社株の評価額は会社の業績や資産状況によって変動します。会社が成長して株価が上がってから承継しようとすると、同じ株数でも贈与税評価額が膨らみ、非課税枠でカバーできる割合はどんどん小さくなっていきます。
極端に言えば、「会社が伸びれば伸びるほど、承継のコストは重くなる」という構造があるわけです。だからこそ、株価がまだ落ち着いているうちに、少しずつ渡し始めておくことに意味が出てきます。
とはいえ、始め方には注意が必要です
ここまで聞くと「じゃあ今すぐ贈与しよう」と思うかもしれませんが、いくつか気をつけたい点があります。
まず、自社株の評価額は毎年の決算内容によって変わるため、贈与の都度、正確な株価算定が必要です。感覚で「だいたいこのくらい」と進めると、後の税務調査で評価額を否認されるリスクがあります。
また、後継者が複数いる場合は、株の分散が経営権の不安定化につながることもあります。誰にどれだけ渡すかは、税金の話だけでなく、会社の意思決定の仕組みとセットで考える必要があります。
そして何より、贈与税の非課税枠を使う方法が、必ずしもすべての会社にとって最適とは限りません。相続時精算課税制度など他の選択肢との比較も含めて、会社の状況に応じた設計が欠かせません。
「何年後」ではなく「今年から」で考えてみる
あなたの会社は、承継を何年後に考えていますか。
もしまだ具体的な年数が決まっていないなら、それこそがコストです。始める年が1年遅れるごとに、非課税で使える枠が1年分ずつ消えていく。それだけの、シンプルだけれど見過ごされがちな話です。
まだ株の承継について税理士と具体的な話をしていないなら、まずは自社株が今いくらの評価額になっているのかを確認するところから始めてみるのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。