先日、資産総額が20億円を超える製造業の社長から、こんな相談を受けました。「息子に会社を渡したい。事業承継税制を使えばいいんだろ?まだ時間あるし」——。
その「まだ時間ある」という感覚が、一番危険なんです。
2027年12月31日という締め切りの正体
事業承継税制の特例措置は、2027年12月31日をもって申請が終わります。この制度を使えば、自社株にかかる贈与税・相続税が最大100%猶予される。つまり実質ゼロで株式を後継者に渡せるわけです。
「それならさっさと動けばいい」と思いますよね。でも実際に手続きを進めようとすると、3つの大きな罠が待ち受けています。今日はその罠を順番に解説します。
罠その①:「猶予」は「免除」じゃない
相談に来る社長の半数以上が、「事業承継税制を使えば税金がゼロになる」と思っています。でも正確には、税金が「猶予されるだけ」です。
後継者が代表を5年以上続け、株式を保有し続けることで、将来的に免除申請ができる可能性があります。しかし途中で状況が変わると話が変わります。たとえば後継者が5年以内に代表取締役を退いた場合、あるいは猶予期間中に株を売却・譲渡した場合、猶予されていた税額が全額復活します。しかも利子税が加算されるので、最初に計算した税額より高くなることさえある。
「猶予」は免除の約束ではなく、条件付きの先送りです。ここを誤解したまま手続きを進めると、10年後に思わぬ請求が届くことになりかねません。
罠その②:「2027年末」は手続き開始の期限ではない
多くの社長が、「2027年末までに申請すればいい」と思っています。でも実際には、2027年12月31日までに株式の贈与または相続を実際に完了させる必要があります。
特例を使うには、まず「特例承継計画」を都道府県に提出して認定を受けるところから始まります。この計画書は税理士や認定経営革新等支援機関の署名が必要で、策定から提出・認定取得まで数ヶ月かかります。その後、実際の株式移転のタイミングを設計して、法的な手続きを踏む。
すべてをひっくるめると、今から動き始めても余裕があるのは「今年いっぱい」くらいです。2026年末まで待てば、かなり綱渡りになる。「来年で十分」と思っている社長ほど、後でギリギリになるのがこの制度の怖いところです。
罠その③:専門家なしで挑む無謀さ
税理士に相談せず自分で調べて動こうとする社長もいますが、これが一番危険です。
事業承継にはまず株価評価が必要で、会社の規模や業種によって計算方法が異なります。評価額が変われば猶予される税額も変わるので、ここは税理士の関与が必須です。さらに後継者との合意形成——財務状況の開示、借入の連帯保証の引き継ぎ、経営権の移転タイミング——こうした論点を一つひとつ整理するだけで、半年から1年はかかります。
専門家なしでは、そもそも何が決まっていて何が決まっていないかさえ把握できない。株価評価・承継計画・後継者との合意、この3点セットを整えるには、最低1〜2年は見ておく必要があります。
今週中に確認してほしいこと
「うちも特例を使いたい」と思うなら、まずこの3点を確認してください。
- 特例承継計画を都道府県に提出済みか(まだなら急ぐ)
- 直近1〜2年で自社株の評価をやり直したか
- 事業承継を専門とする税理士と接点があるか
一つでも「No」なら、今すぐ動く必要があります。
2027年末まで約1年半。でも「体感では半年を切っている」つもりで動くくらいがちょうどいい。株価が上がる前に、家族関係が複雑になる前に、動けるうちに相談してください。「まだ早い」と「もう遅い」は紙一重です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。