先日、ある製造業の社長とお話しする機会がありました。業績は好調で、会社の株式評価額はすでに6億円を超えています。その社長に事業承継の話を振ったところ、こんな答えが返ってきました。「60代になってから、ゆっくり考えますよ」と。

正直、ひやっとしました。

その会社、このまま何もしなければ、相続税だけで2億円を超える可能性があるからです。でも今すぐ動けば、その2億円が丸ごと猶予される制度があります。

会社が大きくなるほど、税負担も重くなる

事業をうまく育てた社長ほど、相続税で痛い目に遭います。これ、すごく理不尽な話ですよね。一生懸命会社を大きくしたのに、後継者に引き継ぐ段階で2億、3億と税金がかかる。後継者に現金がなければ、株を売って税金を払うことになる。最悪、事業の継続そのものが危うくなるケースもあります。

株式評価額が6億円の会社で試算すると、相続税の負担は2億円を超えることも珍しくありません。それを一括で現金で用意するのは、多くの中小企業オーナーには現実的ではありません。

「事業承継税制の特例措置」という切り札がある

国は、後継者への株式移転にかかる相続税・贈与税を猶予する制度を設けています。これが「事業承継税制の特例措置」です。

通常の猶予制度と大きく違うのは、対象株式の**100%**が猶予対象になる点です。つまり、きちんと手続きを踏めば、あの2億円を払わずに会社を引き継げる可能性があるわけです。

ただし、この特例措置には明確な期限があります。2027年12月31日までに特例承継計画を提出し、贈与または相続を開始している必要があります。

「まだ1年半ある」と思いましたか?ここからが本題です。

なぜ「今すぐ」でないと間に合わないのか

事業承継の準備には、最低でも1〜2年かかります。主な理由は3つです。

ひとつ目は、後継者の選定と合意形成です。家族間の話し合い、幹部との調整、候補者が複数いれば意向確認と、思った以上に時間を要します。

ふたつ目は、株価の整理です。株価が高すぎると贈与税の算定に影響するため、事前に株価を調整する戦略が必要なケースもあります。これだけで半年以上かかることもあります。

みっつ目は、書類の準備と申請手続きです。特例承継計画の作成、都道府県への提出、認定申請など、税理士や行政書士と連携した実務作業が続きます。

2026年末に「よし、動こう」と決めても、2027年12月に間に合わないリスクがある。つまり、今が動き始めるギリギリのタイミングです。

株価が上がる前に動くのが鉄則

もうひとつ、見落とされがちな視点があります。

会社の業績が伸びるほど、株式評価額は上がります。特例措置で猶予される金額は増えますが、株価が高くなりすぎると事前の株価対策が難しくなることもあります。「もう少し業績が落ち着いてから」「もっと利益が出てから考えよう」と待てば待つほど、手を打ちにくくなるのが事業承継の怖いところです。

会社の価値が上がることは喜ばしいことです。ただ、それと並走して相続税の負担も増えているという現実から目を背けないでほしいのです。


もし「まだ先でいい」と思っている社長がいたら、一度だけ試算してみてください。今の株式評価額と、何もしなかった場合の相続税概算。その数字を見てから判断しても遅くはありません。

ただ、その試算を税理士に依頼するなら、今すぐが適切なタイミングです。2027年12月のタイムリミットまで、準備にかけられる時間は残り1年半を切っています。「まだ早い」が、一番危ない言葉です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。