「会社を息子に渡したいんだけど、税金が怖くてなかなか踏み出せなくて……」

先日、年商5億円の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。創業30年、地元では知る人ぞ知る優良企業です。後継者も決まっている。あとは「渡すだけ」のはずなのに、なぜ足踏みしているのか。その答えは、試算の数字を見た瞬間にはっきりしました。

株を渡すだけで3億円が消える現実

年商5億円の会社というのは、一般的に思われているよりずっと株式評価額が高くなりやすいのです。収益力や純資産をベースにした評価方法を使うと、自社株の評価額が10億円を超えるケースも珍しくありません。

では、その10億円分の株を子どもに渡すと何が起きるか。相続や贈与によってそのまま移転しようとすると、相続税・贈与税の負担が3億円を超えることがあります。3億円です。会社の利益から地道に積み上げてきた資産の、相当な割合が税金として消えていく計算になります。

「じゃあ少しずつ渡せばいいのでは?」という発想もありますが、毎年少額ずつ移転していく方法では、会社の支配権が宙に浮いたまま何十年もかかってしまいます。経営の安定という観点からも、あまり現実的とは言えません。

「特例措置」を知っているか、知らないかの差

実は、こうした事業承継時の重い税負担を大幅に軽減できる制度があります。「事業承継税制の特例措置」です。

この制度を活用すると、後継者が自社株を引き継ぐ際の贈与税・相続税について、一定の要件のもとで猶予・免除を受けることができます。適用要件は個社の状況によって異なりますが、うまく活用できれば数億円単位の税負担が大きく変わります。

ただし、この特例措置には絶対に外せない前提があります。2027年12月末までに事前の計画申請を完了している必要があるのです。この期限を過ぎると特例措置は利用できなくなります。通常の一般措置は残りますが、優遇の度合いが異なります。

「まだ早い」が最大のリスク

ここで多くの社長が陥る罠があります。「2027年まであと1年以上ある、まだ余裕だ」という感覚です。

しかし、事業承継の準備は想像以上に時間がかかります。まず現在の株式評価額を正確に把握するだけでも、専門家への依頼から報告書完成まで数ヶ月かかることがあります。そのうえで計画書を策定し、税務署への申請を行い、承認を受ける——この一連のプロセスを逆算すると、今年中に動き始めないと間に合わないケースが続出しています。

現場の実感として言うと、「2年前から準備して、ちょうどよかった」という声が圧倒的に多い。「早く動きすぎて損した」という社長には一人も会ったことがありません。

相談前に確認しておきたい4つのこと

事業承継の相談を始める際、事前に把握しておくと話が早くなる情報があります。

  • 自社株の概算評価額(税理士に試算してもらうのが確実)
  • 後継者として想定している人物と、現在の役職・持株比率
  • 現在の役員構成と、承継後の経営体制のイメージ
  • 直近3期分の決算書

この4つを手元に用意した状態で税理士に相談に行くと、具体的な数字をすぐ示してもらえます。「うちは大丈夫だろう」と思っていた社長が、実際の評価額を見て青ざめる——そういう場面を何度も目にしてきました。

動くなら、今がギリギリのライン

事業承継税制の特例措置は、うまく活用できれば文字通り数億円の差を生みます。しかしそれは「知っていて、動いた人」だけに与えられる恩恵です。

2027年12月という期限まで、残り1年半ほどです。準備期間を考えると、今年中に税理士と初回の相談をするのが現実的なタイムラインです。

自社の株式評価額を把握すること、後継者との認識を合わせること、事業承継に詳しい税理士と接点を持つこと。この3つを今期中に動かしておくだけで、数億円の税負担が変わる可能性があります。会社を守るために30年間走り続けてきた努力を、最後の一手で報われるものにしてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。