先日、地方の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を渡したいんだけど、税金がいくらかかるか怖くて、なかなか踏み切れなくて」と。

その社長の会社の自社株の評価額は、おおよそ5億円。後継者に渡す際にかかる相続税・贈与税の最高税率は55%です。単純計算で、2億7,000万円超の納税義務が発生する可能性があります。

「それは払えない。そんな現金、どこにもない」と社長は言いました。そしてその言葉の重さは、私にはよくわかります。多くの中小企業オーナーが、この「税負担の壁」に阻まれて後継者問題を先送りし、最終的に廃業という選択をしてしまっているのが現実だからです。

「2億円の税」を実質ゼロにできる制度がある

日本には「事業承継税制の特例措置」という制度があります。これを活用すると、後継者が自社株を引き継ぐ際にかかる贈与税・相続税を、最大100%猶予することができます。

ここで大事なのは、「猶予」と「免除」は違うということです。猶予とは「払わなくていい」ではなく、「後継者が事業を継続している限り、納税が先送りされる」仕組みです。つまり実質的に、事業を続ける意思と能力さえあれば、承継のコスト負担が大幅に軽減されるということです。

株価5億円の会社であれば、この制度で猶予される税額は優に2億円を超えます。使えるか使えないかで、事業承継の現実的な選択肢はまったく変わってきます。

2027年12月末——この日付を絶対に忘れないでください

この特例措置には、明確な期限があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事に申請し、認定を受けることが必須条件です。この期限を過ぎると、特例措置の適用を受けることができなくなります。

「まだ1年以上ある」と感じるかもしれませんが、この手続きは一朝一夕には進みません。主な流れを整理するとこうなります。

  • 認定経営革新等支援機関(顧問税理士など)の指導のもと、特例承継計画を策定
  • 都道府県への申請・認定取得
  • 実際の贈与・相続実行
  • 税務署への申告と担保提供

これらを計画的に進めようとすると、余裕を持って動き始めても1〜2年はかかります。つまり2025〜2026年中に動き始めなければ、現実的に間に合わなくなるということです。

「うちはまだ早い」が一番危ない理由

事業承継を本格的に検討し始めるのは「社長が70代に入ってから」という方が多いです。でも、この特例の申請には現役オーナーの判断能力と体力が必要ですし、健康状態が突然変化することもあります。

また、この制度には対象要件があります。中小企業者であること、後継者の要件(代表者就任や議決権割合など)、贈与・相続する株式数の条件——これらを満たさなければ適用できません。「うちは対象外だった」「申請期限をすでに過ぎていた」という事例は、既に増えています。

だからこそ、「そのうち考えよう」ではなく、今すぐ顧問税理士に「うちはこの制度を使えますか?」と一言聞くことが大切です。

猶予が取り消されるリスクも知っておく

注意点もひとつお伝えしておきます。この制度の猶予は、一定の条件が崩れると取り消されます。後継者が株式を売却した場合、会社が上場した場合、廃業・解散した場合などは、猶予されていた税額に利子税を加えた額を一括で納付しなければなりません。

ただし、後継者が引き続き経営を続けていれば、猶予は維持されます。継続的な専門家のサポートと、しっかりした事業計画があれば、長期にわたって機能する制度です。

動けるのは今のうちです

冒頭の製造業の社長は、この制度の話を聞いた翌週、顧問税理士に連絡を取りました。現在は特例承継計画の策定に向けて、具体的な準備を進めています。「知らなかった」という理由で2億円払う、という最悪のシナリオを避けられそうです。

会社の株価評価が高ければ高いほど、この制度の恩恵は大きくなります。そして早く動くほど、選択肢も柔軟になります。

もし「いつか事業承継を考えなければ」と思っているなら、「いつか」を「今」に変えるタイミングです。2027年という期限は、思っているよりずっと近くにあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。