先日、年商4億円の精密部品メーカーを営む社長から、こんな相談を受けました。
「息子に会社を継がせたいんだけど、株の税金って高いんですか?」
試算してみると、株式評価額が1億2,000万円を超えていました。このまま何もしなければ、後継者である息子さんが負担する税額は2,000万円以上。思わず沈黙が続きました。
業績が良い会社ほど「罠」にはまりやすい
事業承継における税負担で見落とされがちなのが、「会社の業績が良いほど税金が高くなる」という逆説です。
非上場の中小企業の株式評価は、主に純資産や類似業種の利益・配当・純資産を基準に計算されます。利益が積み上がれば純資産が増え、株価が上がります。つまり、一生懸命経営を頑張ってきた社長ほど、高い評価額の株式を抱えることになるのです。
年商3〜5億円規模の会社でも、株式評価額が1億円を超えるケースは珍しくありません。贈与税・相続税の実効税率は状況によって30〜50%程度になることもあり、2,000万円を超える税負担は決して他人事ではないのです。
特例措置を使えば、税金がゼロになる
こんな状況を救う制度が、事業承継税制の特例措置です。
この制度を使うと、後継者が自社株を贈与や相続で引き継ぐ際の税金が全額猶予されます。要件を満たして後継者が事業を継続すれば、最終的に税金が免除されることも。うまく活用すれば、2,000万円超の税負担がゼロになる可能性があります。
ただし、この特例措置には大きな期限があります。適用期限は2027年12月31日。あと1年半もありません。
「まだ早い」が一番危ない
「まだ先の話」と思っている社長が多いのですが、事業承継の手続きは想像以上に時間がかかります。
認定支援機関への相談、特例承継計画の作成と申請、実際の株式贈与と税務申告——これらのステップを踏むと、余裕を持って進めても半年から1年はかかります。2027年12月末の期限ギリギリで動いても、間に合わないリスクがあります。
後継者が決まっていない場合は、候補の選定・育成から始める必要があり、さらに時間が必要です。「早すぎる」はありません。「遅すぎた」はあるのです。
株価が下がる前に動くのがセオリー
もう一つ知っておいてほしいのが、株価対策との組み合わせです。
事業承継税制を使う場合でも、猶予税額が大きいほど後継者の心理的・経済的な負担は重くなります。経営が悪化して猶予が取り消された場合、利子税と合わせて全額納付が必要になるためです。
そこで多くの税理士は、事業承継の前に意図的に株価を下げる「株価引き下げ対策」を組み合わせることを勧めます。役員退職金の支給、不要資産の整理、収益力の調整など、合法的な方法は複数あります。これらをトータルで設計するには、やはり時間が必要です。
まだ間に合います。でも、今動いてください
2027年12月末の期限まで、まだ時間はあります。ただし、今から動かないと本当にギリギリになります。
まず確認してほしいのは、「自社の株式評価額がいくらか」という一点です。試算してみると、思った以上に大きな数字が出てくることが多い。そこで初めて危機感が生まれます。
事業承継を後回しにしてきた社長は、ぜひ今期中に事業承継専門の税理士に相談してみてください。2,000万円という数字を税金として納めるのか、それとも次世代に残すのか——その分岐点は、今にあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。