先日、創業30年の製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を継がせたいんだけど、顧問税理士に試算してもらったら相続税だけで2億円以上かかるって言われた。そんな現金、すぐに用意できないよ」

その言葉の重さが、今でも頭に残っています。

業績が良い会社ほど、承継の税負担が重い

自社株は上場株と違って市場で売買されません。それでも税務上は評価額が計算され、その金額をもとに相続税がかかります。

業績が好調な会社ほど、株式評価額は上がります。評価額が5億円を超えるような会社では、相続税だけで2億円を超えるケースも珍しくありません。

問題は、株式を受け取っても現金化できないことです。売ってしまえば会社を手放すことになる。かといって税金は払わなければならない。事業承継の最大の壁は、まさにこの「株はあるのに現金がない」という構造にあります。

特例事業承継税制とは何か

こうした問題に対処するために設けられたのが、特例事業承継税制です。

一言で言えば、後継者が自社株を引き継ぐ際に、贈与税または相続税の納税を100%猶予する制度です。承継時点では実質ゼロ円で株式を受け取れる可能性があります。

通常の事業承継税制(一般措置)では猶予割合が最大80%でしたが、特例措置では100%に引き上げられました。さらに、後継者が亡くなった場合や会社が倒産した場合には、猶予されていた税額が免除される規定も設けられています。

承継を検討しているオーナー社長にとって、これほど強力な制度はそうそうありません。

実行のタイムリミットは2027年12月末

この特例措置には、明確な期限があります。贈与・相続の実行は2027年12月31日までです。

1年以上あると思われるかもしれませんが、事業承継の準備は想像以上に時間がかかります。後継者の育成、株式の評価、税理士・弁護士との調整、必要な組織再編——これらを並行して動かすと、あっという間に時間は過ぎていきます。

「まだ余裕がある」と先送りしていると、期限直前に準備が追いつかない事態になりかねません。

すでに終わっている「計画書提出」の締め切り

ここで、見落とせない重要な点があります。

特例事業承継税制を利用するには、「特例承継計画」を都道府県に提出する必要がありました。この計画書の提出期限は、2026年3月末で既に終了しています

つまり、計画書を提出済みの方だけが対象です。「これから申請しよう」という選択肢は、もう残っていません。

もし提出が間に合わなかった方は、通常の事業承継税制(一般措置)や役員退職金の活用、持株会の設計など、別のアプローチを税理士と一緒に検討することになります。

計画書を提出済みでも確認が必要なこと

計画書を提出されている方も、全員が適用を受けられるわけではありません。

資産保有型・資産運用型の会社は、原則として対象外です。総資産に占める有価証券・不動産・現金等の割合が高く、事業実態よりも資産管理の色彩が強いとみなされる場合、特例の適用から外れることがあります。

また、適用後の5年間「経営承継期間」中は、雇用維持などの要件を満たし続ける必要があります。要件を外れた場合、猶予されていた税額が一括で請求される可能性があります。制度を使うだけでなく、使い続けるための管理体制も必要です。

動けるなら、今年中に行動計画を固める

計画書を提出済みで、資産保有型にも該当しない——そういった方にとって、今は準備を加速する絶好のタイミングです。

贈与で承継する場合、株式評価は贈与時点の値が基準になります。業績が一時的に落ち着いているタイミングを狙うことで、評価額を抑えた状態で承継できる可能性があります。株価対策と承継のタイミングは、1〜2年前から逆算して動かないと間に合わないケースがほとんどです。

冒頭の社長も、計画書の提出が間に合っていたことが確認でき、顧問税理士と連携して承継スケジュールの策定を進めています。「2億円が0円になるかもしれない」と聞いたときの、あの安堵の表情が忘れられません。

計画書を提出済みの方は、2027年末を待たずに今年中に行動計画を固めることをおすすめします。まずは担当の税理士に「特例事業承継税制の実行スケジュールを一緒に確認したい」と声をかけてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。