先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「うちの会社、相続税が55%も取られるって聞いたんですが、本当ですか」。

決算書を見せてもらう前から、顔色が悪いのがわかりました。もし本当に財産の半分以上を税金で持っていかれるなら、後継者に会社を渡す前に潰れてしまう。そう思い込んでいたようです。

55%はどこにでも当てはまる数字ではない

結論から言うと、55%という税率は、法定相続分に応じた取得金額が6億円を超える部分にだけかかる最高税率です。相続財産の全額に一律でかかるわけではありません。

相続税は超過累進課税なので、金額が上がるごとに段階的に税率が上がっていく仕組みです。取得金額1000万円以下なら10%、3000万円以下なら15%というように、財産の低い部分には低い税率しかかかりません。

この社長のケースも、実際にシミュレーションしてみると、平均的な実効税率は表面上の55%よりずっと低い水準に落ち着きました。数字だけが独り歩きして、必要以上に不安になっている経営者は少なくないのです。

役員報酬を後継者に移しても、相続税は減らない

次に社長が聞いてきたのが、「役員報酬をどんどん後継者に渡せば相続税は減るのか」という質問でした。

これは誤解しやすいポイントです。役員報酬の移転は、あくまで生前の所得を後継者に移す話であって、社長自身が亡くなった時点で残っている相続財産そのものを減らす効果はありません。

報酬をいくら後継者に厚く配分しても、会社の株式評価額や社長個人の資産が高いままなら、相続税の計算対象は変わらないということです。ここを混同すると、対策をしたつもりで何も対策していない、という状態に陥ります。

本当に効果があるのは、相続財産そのものの評価額を下げることです。特に非上場企業のオーナー社長にとっては、自社株の評価が相続財産の中で大きな割合を占めているケースがほとんどです。

手を付けるべき3点セット

では実際に何から着手すればいいのか。基本になるのは次の3つを同時に考えることです。

  • 自社株評価の引き下げ:利益や純資産を圧縮する仕組みを使い、株式の評価額そのものを下げていく
  • 生前贈与の活用:非課税枠や特例を使いながら、少しずつ後継者に財産を移していく
  • 納税資金の確保:評価を下げきれなかった分に備えて、相続発生時に現金で税金を払える体制を整えておく

評価対策だけを進めて納税資金の準備を怠ると、いざという時に自社株を手放さざるを得なくなるケースもあります。逆に納税資金だけ確保して評価対策を放置すると、必要以上に大きな税負担を背負い続けることになります。

3つはそれぞれ独立した対策ではなく、セットで初めて機能するものだと考えてください。

早く動いた人ほど選択肢が多い

自社株評価の引き下げも生前贈与も、効果が出るまでには数年単位の時間がかかります。相続が発生してから慌てて動いても、使える手段はかなり限られてしまいます。

冒頭の社長も、実際の税負担が思ったより低いとわかって一安心していましたが、それで終わりにはしませんでした。今の株価が低いうちに贈与を進めておいた方が、将来の税負担はさらに軽くなるからです。

まだ自社株の評価額を試算したことがないなら、まずはそこから始めてみるのがおすすめです。数字を知ることが、不安を具体的な行動に変える第一歩になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。