先日、ある社長からこんな相談を受けました。「息子に会社を継がせようと思っているんですが、税金ってどのくらいかかりますかね?」
業歴20年、年商3億円の製造業の社長です。決して大企業ではありません。でも試算してみると、相続税の見込み額は1000万円を軽く超えていました。そのとき社長の表情が変わったのを、今でも覚えています。
自社株の評価額、思っているより高い
中小企業の経営者が見落としがちなのが、自社株の評価額の高さです。
上場企業なら株価は市場が決めますが、非上場の中小企業の場合、税法上の計算式(類似業種比準方式や純資産価額方式)で算定されます。これが曲者で、業績が好調な会社ほど、また内部留保が厚い会社ほど、評価額がどんどん膨らんでいきます。
年商数億円レベルでも、自社株の評価総額が1億円を超えることは珍しくありません。仮に1億円分の株を相続すれば、税率は最高55%。対策なしでは数千万円単位の相続税がかかることになります。「まさかうちの規模でそんなに」という反応は、毎回のことです。
特例の期限は2027年12月31日
この問題を解決する手段のひとつが、「事業承継税制の特例措置」です。
後継者が自社株を引き継ぐ際の相続税・贈与税を最大100%猶予してくれる制度で、上手く活用できれば数千万円規模の税負担をゼロにできる可能性があります。
ただし、この特例には明確な申請期限があります。2027年12月31日です。
「まだ1年半以上ある」と思ったなら要注意です。申請さえすれば終わりという制度ではなく、事前に「特例承継計画」を都道府県の認定機関に提出・認定してもらう必要があります。この計画書の作成には税理士や認定支援機関との打ち合わせが必要で、準備期間は半年から1年かかることも珍しくありません。
実質的なタイムリミットは、もうすぐそこまで来ています。
申請後に待つ「5年縛り」の怖さ
特例を使えばすべて解決、とはならないのが税制の難しいところです。
事業承継税制の特例を適用した後は、5年間にわたって毎年「継続届出書」を税務署に提出する義務があります。それだけではなく、後継者が代表者であり続けること、雇用の8割以上を維持すること、といった条件を守り続けなければなりません。
この条件を一度でも破ると、猶予されていた税額に延滞税が上乗せされて全額一括で請求されます。猶予期間が長くなればなるほど、取消しになったときのダメージも大きくなる仕組みです。
「特例を使ったから安心」ではなく、「使った後の管理をどう続けるか」まで含めてプランを立てることが、本当の意味での承継対策です。
後回しが、最も高くつく
事業承継の問題は、先送りするほど選択肢が狭まります。
早めに動けば、暦年贈与を使って少しずつ株を移転したり、会社の評価額を意図的に下げる対策を打ったり、複数の手段を組み合わせることができます。でも期限ギリギリになると、使える手段は一気に限られます。
さらに、社長が体調を崩したり、急に相続が発生したりすれば、準備の時間すらなくなります。自社株の承継は「そのうちやろう」が一番危険なテーマです。
まだ特例承継計画を提出していないなら、今年中に一度、税理士に試算を依頼してみてください。その数字を見たとき、きっと「早く動いておいてよかった」と思えるはずです。行動のタイミングとして、今が最後の余裕のある時期かもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。