先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「工場と土地を持っているんだけど、相続のときにどれくらい税金がかかるんだろう?」

帳簿を確認すると、純資産は約2億円。「そのくらいの評価になるでしょう」と最初は思ったのですが、詳しく試算してみると、話が全然違ってきました。試算の結果は、帳簿の2.8倍。最終的な相続税の負担は数千万円規模になる可能性がありました。

なぜ帳簿の2〜3倍になるのか

非上場の中小企業の自社株は、相続の際に「取引相場のない株式」として評価されます。その代表的な計算方法が「純資産価額方式」です。

この方式で肝心なのは、資産を帳簿上の金額ではなく、時価で評価し直すという点です。

たとえば、20年前に1億円で購入した工場の土地。帳簿価格はそのままでも、地価が上昇していれば相続税の評価では2〜3億円になっていることがあります。設備も同じで、減価償却でほぼゼロになっていても、実際に使える価値があれば時価で計上されます。

こうして、帳簿上は純資産2億円だったものが、相続税の計算では5億円を超えてしまう。「2〜3倍」は誇張でも何でもなく、業歴の長い会社ほどよく起きることです。

合法的に評価を下げる3つのアプローチ

では、どうすれば評価を抑えられるのか。よく使われる方法は大きく3つあります。

① 役員退職金で純資産を圧縮する

社長が引退するタイミングで役員退職金を支払うと、会社の純資産が減り、株式評価が下がります。退職金は損金として計上できるので、法人税の節税にもなります。一石二鳥の対策です。

ただし、金額には「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率(通常3倍前後)」という目安があります。過大すぎると税務署から否認されるリスクがあるため、事前に税理士と根拠を整理しておくことが大切です。

② 会社規模を大きくして、評価方法の比率を変える

非上場株の評価には「純資産価額方式」のほかに「類似業種比準方式」があり、会社の規模によってどちらをどの割合で使うかが変わります。大会社ほど類似業種比準方式の比率が高くなり、これは業界の上場企業の株価を参照するため、一般的に評価が低くなる傾向があります。

つまり、会社を成長させることが節税につながるという逆転現象が起きることがあるのです。売上規模や従業員数によって「大会社・中会社・小会社」に区分されるので、まず自社がどこに該当するか確認してみてください。

③ 事業承継税制で相続税を猶予・免除する

「非上場株式等についての相続税の納税猶予制度」を活用すると、後継者が引き継いだ自社株にかかる相続税を猶予し、最終的には免除することができます。うまく使えば、相続税の実質負担をゼロにすることも可能です。2018年の改正で要件が大幅に緩和され、以前より使いやすくなりました。

「使えると思ったら使えなかった」が最も危険

事業承継税制は強力な制度ですが、落とし穴もあります。

まず、「資産保有型会社」は対象外です。不動産や有価証券などが総資産の70%以上を占める会社がこれに当たります。工場や土地を多く持つ会社、副業で不動産賃貸をしている会社などは、知らないうちに該当しているケースがあります。

また、猶予が継続するには「雇用の8割を5年間維持する」などの要件を満たし続ける必要があります。相続後も要件を守れなかった場合、猶予が取り消され、利子税ごと一括納付を求められる事態になります。

手続き面でも、都道府県知事への認定申請など、複数のステップがあります。「相続が発生してから動く」では絶対に間に合わないので、少なくとも3〜5年前からの準備が現実的です。

今すぐできることは「試算」だけでいい

評価を下げる対策をいきなり全部やろうとしなくていいです。まず現状の評価額を試算することから始めてください。決算書と固定資産税評価証明書があれば、税理士に概算を出してもらうことができます。

「うちはまだ先の話」と思っていても、社長が60代を迎えたら、70代での承継を逆算した計画を立てておく必要があります。早ければ早いほど、選択できる対策の幅が広がります。

自社株の評価が帳簿の3倍になっているかもしれないと聞いて、少しでも気になった方は、今期の決算が終わったタイミングで税理士に一度相談してみてください。問題なければそれで安心できますし、対策が必要なら動き出せます。どちらに転んでも、確認して損はありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。