決算月のある夜、製造業の社長からこんな相談を受けました。「来月払いの経費、今期の決算には間に合わないよね?」

実はこれ、思い込みです。支払いが来月であっても、今期の経費として計上できるものがあります。「未払費用」と呼ばれる、税務上まったく問題のない処理です。

支払いは来月でも、経費は今期にできる

法人税の考え方では、経費を計上できるタイミングは「お金を払った日」ではなく「サービスの提供を受けた日」です。今期のうちにサービスの提供を受け終えていて、支払いだけが翌月にずれ込んでいるなら、その費用は今期の損金として計上できます。

たとえば3月決算の会社で、3月分の光熱費を4月に支払う契約になっているとします。電気やガスは3月中にしっかり使い切っているので、支払いが翌月であっても、3月期の経費として未払費用に計上できるわけです。

決算間際になって「経費が足りない、利益が出過ぎている」と気づいたときに、見落としがちなのがこの未払費用です。すでに発生している費用を計上し忘れているだけで、実質的には利益を圧縮できる余地が残っていることが少なくありません。

ポイントは「債務確定」の3条件

ここで重要になるのが「債務確定主義」という考え方です。未払費用として損金にするには、期末までに次の3つの条件を満たしている必要があります。

ひとつ目は、債務が成立していること。契約に基づいて、支払う義務がすでに発生している状態です。ふたつ目は、具体的な給付の原因となる事実が発生していること。つまりサービスの提供や商品の納品が実際に完了していることです。三つ目は、金額が合理的に算定できること。請求書がまだ届いていなくても、契約や実績から金額が確定できれば問題ありません。

この3つがそろって初めて、未払費用として損金算入が認められます。逆に言えば、どれか一つでも欠けていると、税務調査で否認される可能性が出てきます。

典型例は社会保険料・光熱費・外注費

実務でよく登場する未払費用には、いくつかパターンがあります。

翌月払いの社会保険料は代表例です。3月分の社会保険料を4月に納付する会社は多いですが、3月分は3月期にすでに発生している人件費関連コストなので、未払費用として計上できます。

電気・ガス・水道といった光熱費も同様です。検針日と支払日にずれがあっても、期末までに使用した分は今期の費用です。

外注費も見落とされがちな項目です。外注先に3月分の作業を発注し、成果物の納品も3月中に完了していれば、請求書の到着や支払いが4月にずれても、3月期の未払費用として処理できます。

年商5億円規模の会社であれば、社会保険料だけで月数百万円になることも珍しくありません。これを未払費用として正しく計上するだけで、決算のインパクトは決して小さくないはずです。

見込みだけの計上は否認される

ここで一番注意してほしいのが、「まだ確定していないもの」を未払費用として計上してしまうケースです。

たとえば「来期発生しそうな修繕費」や「まだ契約も納品も終わっていない外注費」を、利益調整のためだけに未払費用として計上するのは認められません。これは費用の「見込み」であって「債務確定」ではないからです。こうした見込み計上は、引当金の考え方に近いものであり、税務上は損金算入が制限されています。

未払費用と引当金は似ているようで、税務上の扱いはまったく異なります。未払費用はあくまで「すでに確定した債務」を計上する処理であり、将来の不確実な支出に備える引当金とは別物だと理解しておく必要があります。

決算前に経費の計上漏れがないか確認するなら、「期末までにサービスの提供を受け終わっているのに、支払いが翌期にずれているものはないか」という視点で、契約書や納品書を一度洗い出してみるのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。