先日、都内で製造業を営む社長から、決算2週間前にこんな連絡が届きました。「今期は利益が出すぎて、税金がかなりかかりそうです。今から何かできることはありますか?」
こういったご相談は、毎年この時期に増えます。決算前の節税といえば、設備投資や保険加入が話題になりがちです。でも実は、すでに発生しているのに計上し忘れている費用を拾い上げるだけで、数十万円単位で課税所得を圧縮できるケースが少なくありません。
その代表格が「未払費用」です。
未払費用とは
未払費用とは、決算日までにサービスの提供を受けているのに、まだ支払いが済んでいない費用のことです。会計では「発生主義」が原則なので、実際の支払いが翌期であっても、当期に発生した費用として計上できます。
「支払いが終わっていないから計上できない」と思い込んでいる経営者は、意外と多いです。その誤解が、毎年数十万円の損失につながっています。
では、特に見落としやすい3つを順番に見ていきましょう。
第3位:従業員の未払残業代
給与の締め日と決算日がずれている会社は多いです。たとえば、3月決算の会社が「月末締め・翌月25日払い」の給与体系なら、3月分の残業代は4月に支払われます。
この場合、3月分の残業代は「3月中に確定した費用」として、当期の経費に計上できます。給与明細や勤怠システムのデータを確認して、未払い分を月次で拾い上げてください。
従業員が多い会社ほど金額は大きくなります。社員50人の会社で1人あたり平均1万円の未払残業代があれば、それだけで50万円の経費が浮かび上がります。
第2位:未払の社会保険料(会社負担分)
社会保険料は毎月翌月納付が原則です。3月分の保険料を4月に支払う、という形ですね。つまり、3月決算なら3月分の社会保険料はまだ払っていません。
でも、会社負担分の社会保険料は「3月に発生した費用」として当期計上できます。健康保険・厚生年金・雇用保険などを合算すると、月額で数十万円になる会社も珍しくありません。
計算方法はシンプルで、月額の会社負担保険料×1か月分を未払計上するだけです。保険料額表を手元に用意して、経理担当者と確認しておきましょう。
第1位:未払の顧問料・外注費
これが最も金額インパクトの大きいケースです。
税理士の顧問料、弁護士の法律相談料、社労士の給与計算費用——こういった専門家への報酬は、役務の提供が完了していれば、支払い前でも経費計上できます。
たとえば、顧問税理士と「月額20万円」で契約していて、3月決算なら3月分の20万円はまだ請求が来ていなくても計上可能です。さらに、決算整理の特別報酬が発生するなら、それも未払計上の対象になり得ます。
外注費も同様です。フリーランスのライターやデザイナー、ITエンジニアへの業務委託費で、3月中に納品・検収が完了していれば当期の費用です。請求書の発行が4月になったとしても、役務完了の事実があれば問題ありません。この1項目だけで、規模の大きい会社では百万円単位になることも十分あり得ます。
計上を正当化するための「証拠」を残す
未払費用の計上は合法的な節税手法ですが、根拠のない計上は税務調査でひっくり返されます。「なぜその金額を計上したか」を説明できる証拠を残しておくことが大切です。
- 残業代:勤怠管理システムのデータ、給与計算書
- 社会保険料:保険料納入告知書、保険料額表
- 顧問料・外注費:契約書、業務完了の確認メール、請求書(後日発行でも可)
書類が揃っているかどうかを、決算前に一度確認しておくだけで、後の安心感がまったく違います。
決算は「締め作業」ではなく「最後の節税チャンス」だと考えてください。未払費用を正しく拾い上げるだけで、追加の支出ゼロで税負担を減らせます。今期の決算月に入ったら、まず給与台帳・保険料計算書・顧問契約書を手元に集めて、顧問税理士に「未払費用の計上漏れがないか見てほしい」と一声かけてみてください。それだけで、数十万円が手元に残るかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。