決算が近づくたびに、倉庫の奥で埃をかぶった在庫を見て見ぬふりをしていないでしょうか。
先日、製造業を営むある社長から「もう何年も動いていない在庫があるんだけど、これって何とかならないの」という相談を受けました。話を聞くと、帳簿上は資産として残ったまま、実際には誰も見向きもしない状態が数年続いていたそうです。
結論から言うと、こうした在庫は実際に廃棄すれば、その期の損金として計上できます。ただし「実際に廃棄する」という部分に、税務上のポイントが集約されています。
廃棄損はその期の損金にできる
売れる見込みのない在庫を処分した場合、その処分にかかった帳簿価額は「廃棄損」として、廃棄した事業年度の損金に算入できます。
決算対策としてはシンプルで、かつ効果の大きい方法です。何年も塩漬けになっている在庫があるなら、決算前に一度、倉庫全体を棚卸しして「本当に売れる在庫かどうか」を仕分けしてみる価値はあります。
売れない在庫を抱え続けることは、保管コストがかかるだけでなく、資産として税金の対象にもなり続けるという、二重の負担を意味します。整理するタイミングは早いほど良いのです。
落とし穴は「現物が残っていること」
ここで多くの会社がやってしまいがちなミスがあります。それは、帳簿上だけ在庫を減らして、現物は倉庫に残したままにしてしまうケースです。
税務調査では、帳簿の数字だけでなく実態が必ず確認されます。廃棄したはずの在庫が倉庫に残っていれば、その廃棄損は当然ながら否認されます。しかも悪質と判断されれば、加算税などのペナルティにつながるリスクもあります。
節税のつもりが、かえって余計な税負担を招く結果になりかねません。廃棄損を計上するなら、帳簿上の処理と現物の処分は、必ずセットで行う必要があります。
廃棄の証拠をどう残すか
では、実際にどう証拠を残せばよいのでしょうか。基本は「いつ、何を、どうやって廃棄したか」を客観的に説明できる状態にしておくことです。
具体的には、廃棄前後の在庫の写真、産業廃棄物処理業者に依頼した場合はマニフェスト(処理記録)や領収書、社内で廃棄を決定した稟議書や議事録などが有効です。
自社で廃棄作業を行った場合でも、作業日時と担当者、数量を記録した廃棄報告書を残しておくと安心です。特別な書式は不要ですが、「これがあれば誰が見ても廃棄の事実が分かる」というレベルの記録を意識してください。
手間はかかりますが、この一手間が数十万円、場合によっては数百万円の税務リスクを防ぐことにつながります。
評価損との違いも押さえておきたい
よく混同されるのが「評価損」です。評価損は在庫を廃棄せず、価値が著しく下がったことを理由に帳簿価額を切り下げる処理で、こちらは「著しい陳腐化」や「災害による著しい損傷」など、税務上かなり限定された要件を満たさないと損金として認められません。
一方の廃棄損は、実際に処分してしまえば要件のハードルは評価損よりも低く、実務上は使いやすい制度です。「売れないから価値を下げたい」だけなら評価損の要件を満たすのは簡単ではありませんが、「売れないから捨てる」であれば廃棄損の対象になりやすい、と考えると整理しやすいでしょう。
この違いを理解しておくと、決算前の在庫整理の方針も立てやすくなります。
まだ倉庫に眠ったままの不要在庫があるなら、決算を迎える前に一度リストアップして、廃棄する・しないの判断と、廃棄する場合の証拠づくりまでセットで進めておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。