先日、創業から28年という製造業の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ引退を考えているけど、最後に会社から受け取るお金は給与でまとめてもらうのと、退職金でもらうのと、どっちが得なんですか」。

答えは明確です。同じ金額でも、退職金として受け取ったほうが税金は大きく軽くなります。

なぜ退職金は税負担が軽くなるのか

給与として受け取ったお金は、他の所得と合算されて総合課税の対象になります。所得が増えるほど税率が上がる累進課税の仕組みの中で、まるごと課税されるわけです。

一方、退職金として受け取る「退職所得」は事情が違います。まず勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引き、残った金額の原則2分の1にしか課税されません。しかも他の所得とは分けて計算する分離課税なので、給与所得の税率を押し上げる心配もありません。

先ほどの社長のケースで見てみましょう。勤続28年なら、退職所得控除額は800万円+70万円×(28年-20年)で1,360万円になります。仮に退職金5,000万円を受け取ったとすると、(5,000万円-1,360万円)×1/2=1,820万円が課税対象です。5,000万円のうち6割以上が非課税扱いになる計算で、給与として受け取った場合とは税負担の重さがまるで違います。

「いくらでも非課税」というわけではない

ここで気をつけたいのが、退職金なら金額を大きくすればするほど得をする、という発想です。これは危険です。

退職金は会社側では損金に算入されますが、税務署は「不相当に高額な部分」を損金として認めません。否認された部分は法人税の課税対象に戻され、会社側で余計な税負担が発生します。

実務上よく使われるのが功績倍率法という考え方です。最終報酬月額×勤続年数×功績倍率で適正額の目安を算出します。功績倍率は社長で3.0倍前後が一つの相場とされていますが、業種や会社規模、同業他社の水準によって幅があります。

退職金規程を整備していない会社や、退任直前に急に役員報酬を引き上げて退職金の基準額を膨らませたようなケースは、税務調査で特に狙われやすいポイントです。適正額の根拠は、退任してから慌てて作るものではなく、在任中から積み上げておくべき資料だと考えてください。

実務で押さえておきたいこと

退職所得控除額の計算は、勤続年数20年以下の部分と20年超の部分で単価が変わります。20年以下は1年あたり40万円(最低80万円)、20年超の部分は1年あたり70万円です。長く勤めた役員ほど控除額が積み上がる設計になっているため、後継者への引き継ぎを見据えて早めに役員就任させておくことも、将来の税負担を左右する要素になります。

また、退職金の原資をどう準備するかも合わせて考える必要があります。急に退職金の支払いが必要になっても手元資金が足りなければ本末転倒です。生命保険や役員退職慰労金の積立など、資金準備の手段は退任のタイミングから逆算して検討しておくのが安全です。

退職金規程がまだ整っていないなら、決算のタイミングで一度、税理士と一緒に功績倍率や規程の内容を見直しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。